学会や大学図書館の中の人にでもならないとなかなか馴染みのない学術出版の世界。一歩足を踏み入れると、学術面からはインパクト・ファクターの登場による被引用数の偏重、研究者のピア・レビュー負担の増加など、商業面からは論文数の急増、高い利益率による儲けすぎ、大学図書館の負担額の増加など、さまざまな問題が噴出しており、それでもさまざまな学術誌がなくなる気配はない。まさに本書の帯にもある “複雑怪奇な世界” という言葉がよく似合う。
本書はそうした学術出版の歴史を紐解くことで、それらの諸問題が生じた背景を論じている。それぞれの問題は独立して発生したわけではなく、歴史の中で起こるべくして起こった事柄であるというのがよく分かる。また、学術出版の歴史を辿ることは、密接に関係する欧米のアカデミアの歴史そのものを辿ることになる。こうした流れを知っておくことは一般の研究者にも有益と思われる。
実は恥ずかしながら本書を読むまで、レフェリー (referee) 制とピア・レビュー (peer review) 制の違いをあまり意識せず、混同して説明していたこともあった。しかしながら現在主流となっているピア・レビュー制は比較的最近の1970年代に導入された仕組みに過ぎず、それまでは学術誌の編集部などが審査と指南を行うレフェリー制が主流であった。考えてみれば複写機がない時代にピア・レビューを行うのは技術的にも予算的にも困難であり、導入できる道理はなかった。こうした歴史を踏まえると、現在のピア・レビュー制が未来永劫続くとは到底確信できず、出版の質を担保する新たな仕組みが生まれてくるのだろうと思われる。

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