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矢印の力 その先にあるモノへの誘導

矢印というのは考えてみるとかなり奇妙な記号である。世界中で広く使われていながらその用途は地域や文化による差がほとんどなく、誰もその定義をきちんと習ったことがないにも関わらずその意図をほぼ間違いなく理解されている。実際には動きの方向や変化、注意喚起、連結関係など多様な用途で使用されているのだが、使用されている文脈を併せて見れば誤解することはまずないであろう。 この何かを指し示す役割はかつては指差しのアイコンが担っていたことが確認できるが、それがいつから記号としての矢に置き換わっ...
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井上達夫, リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください

いわゆる "エリート主義で偽善的なリベラル" が信用を失って久しいが、本来のリベラリズムは正義を柱とする強固な主張である。本書の多くの部分はこの正義に関する議論が占めている。ここで言う正義とは反転可能性を持つ正義概念であり、すなわち、自分の他人に対する行動や要求が、もし自分がその他者だったとしても受け入れられるかどうかによって判定される。これを曖昧にしてご都合主義的に二重基準 (ダブルスタンダード) な正義の使い分けをしてしまっているのがリベラルの没落の原因の一つの理由だろう...
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NHKスペシャル取材班, 激走! 日本アルプス大縦断 密着、トランスジャパンアルプスレース 富山~静岡415km

トランスジャパンアルプスレースに初めてカメラが入った2012年の第6回大会の記録。レースそのものだけではなく、NHKスペシャル取材班の裏話も多い。 通常はツェルト使用で1ヶ月、小屋泊まりでも2週間を要する距離415km、累積標高差27,000mのコースを8日以内に走り切るレース。いきおい休憩や食事、睡眠を極限まで削りながらの挑戦となる。賞金や賞品は一切なく、ただただ自分のために走る。 ドキュメンタリとしての面白さに加え、ウルトラライトハイキングのtipsも興味深い。商店での食...
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ベン・リンドバーグ(著), トラビス・ソーチック(著), 岩崎晋也(訳), アメリカン・ベースボール革命 データ・テクノロジーが野球の常識を変える

マネー・ボールに代表される従来のセイバーメトリクスは、野球選手たちの能力や勝利への貢献度を正しく評価し、埋もれた才能を低コストで発掘することが大きな目的であった。一方、本書アメリカン・ベースボール革命は、いかにして優れた選手を育成するかに主眼を置いている。いわば、セイバーメトリクスの一歩先を行くものと言って良いだろう。 取り上げられる手法も、最近メディアでも取り上げられることが多くなったバレルから変化球の比率まで多岐に渡る。どれも効率よく選手を育成するには欠かせない手法である...
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西村晋(著), 井上純一(イラスト), 中国共産党 世界最強の組織 1億党員の入党・教育から活動まで

中国共産党と聞くと党大会のニュースで見る党中央ばかりが思い浮かぶが、それは中国共産党の頂点の部分に過ぎない。日本の報道によくある中国共産党の組織図も最上層部のみに過ぎず、実際には1億人に迫る一般党員が何層もの階層を形成して中国共産党を支えている。これだけの巨大組織をトップダウンだけで動かすのは不可能であり、ビジョンを共有して人の和 ("人和" は孫氏にも出てくる言葉であり中国の組織にも馴染みが深い) を成す必要がある。この部分を担う仕組みが中国共産党には内蔵されており、党中央...
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施川ユウキ, 鬱ごはん (5)

前巻に引き続きコロナ禍の中でのフードデリバリー編。時事ネタを取り込みながらもどこか普遍的な感情を揺さぶってくる独特の作風は健在。
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ダイアナ, 夜のことばたち

Twitterの有名アカウント、ダイアナの投稿漫画を単行本化したもの。水商売系の闇を描いた作品で、これもTwitter文学と言えるかもしれない。
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清水浩史, 秘島図鑑

図鑑というほど網羅性があるわけでもなく、シマダスのような資料性があるわけでもなく。読み物として楽しむ本。 北方四島など政治的に微妙な島の解説にマスコミ出身者らしい思想が強めながらもどこか軽い表現が散見されるので、純粋に離島のロマンを楽しみたいだけの人は要注意。
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小澤一雅, 卑弥呼は前方後円墳に葬られたか 邪馬台国の数理

細々と続いているマイブームの邪馬台国もの。やはり専門外の方の作品が面白い 本書も考古学ではなく情報工学を専門とする大阪電気通信大学教授の手によるもの。専門を生かし、歴代天皇の在位年数を数理的に分析し、正しい崩年を推定しようというアプローチは面白い。
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高世えり子, なるほど! カンタン! 理系ごはん

理系的な合理的な調理法かと思って手に取ったら、どちらかというと化学知識を活かした料理本だった。料理は科学実験とはよく言ったもので、相性が良い組み合わせだと思う。漫画もエッセイコミックの王道スタイルで読みやすい。