著者自らがthe Society of Trust and Estate Practitioners (STEP) の資格を取得し、ウェルス・マネジャーのインサイダーとして同業者たちへのインタビューを行っている。こうした同業のよしみを活かしてかなり踏み込んだ情報を引き出しているのはさすがとしか言いようがない。
本書で扱う富裕層は日本でよく取り上げられる野村総合研究所の定義よりは一段上で、3,000万ドル以上の運用可能残高が最低ラインとされている。彼らは従来の有閑階級とは異なる種類のエリートであり、みなグローバルで政治的、社会的に均質的な自律的集団とされる。現代ではこうした人々がウェルス・マネジャーという専門家の協力を得て世界的資本を支配している。なお、主に欧米の富裕層が彼らの顧客であり、本書全体を通じて日本の存在感がないのは寂しい。
本書の原題は “Capital without Borders” だが、後半はこのオフショア金融を利用した課税逃れや規制逃れに多くのページを割いている。部外者の多くは見え透いた詐欺とみなすこうしたオフショア金融の利用を、ウェルス・マネジャーの多くは合法で必要なものとみなしている。STEPの研修用マニュアルでもオフショア金融の利用を正当化しており、そこに罪悪感はない。
ウェルス・マネジメントの具体的な戦略についても言及されている。信託を中心に据えながら、財団や法人企業も組み合わせることで、プライバシーを守りながら課税や規制を逃れ、債権者や法制度からの保護を得ることを可能にしている。こうした鉄壁の防御が富の研究を困難にしており、不公平について知る機会が失われている。

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