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吉田一郎, 世界飛び地大全 不思議な国境線の舞台裏

世界飛び地領土研究会の書籍化。企画の勝利と言える作品で、数奇な運命を辿った数々の土地をその歴史と共に楽しめる。机上の調査のみの本で現地の訪問などはないが、その土地の歴史を俯瞰するための本なのであまり気にならない。また、この種の本にしては政治的な姿勢が中立なのも良い。編集はかなり甘めで、あまり読みやすい本ではない点が残念。せめて文体くらいは統一して欲しい。地図も見やすいものではない。
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神山典士, 北朝鮮にスマッシュ。 ピンポンミステリーツアー

いわゆる北朝鮮入国記だが、ところどころに著者の作家魂が感じられる佳作。後日の韓国訪問と併せて国境を両者の視点から眺める試みもなかなか。
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チャールズ・マレー(著), 橘明美(訳), 階級「断絶」社会アメリカ 新上流と新下流の出現

ここ50年間 (1960年~2010年) で米国に新たに生まれた新上流と新下流という階級。彼らが互いに交わらなくなっている様子やそれが引き起こす様々な問題を豊富なデータで裏付けていく。翻訳の質が高いのも嬉しい。
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日下公人, 人間はなぜ戦争をするのか 日本人のための戦争設計学・序説

道徳のレベルではない、もう少し現実的な戦争論。後半のifの積み上げはさすがにややご都合主義に過ぎると感じるが、総論としては納得できる内容。
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ブライアン・カプラン(著), 奥井克美(監訳), 長峯純一(監訳), 選挙の経済学

選挙そのものを経済学で読み解こうというよりは、投票者の持っているバイアスの話題が主。原題の "The Myth of the Rational Voter" の方が内容を的確に表している。政治に関する知識の有無がバイアスを生むという主張は実に説得力がある。米国の経済意識調査 (SAEE)を中心としたエビデンスも十分。後半の合理的無知や原理主義者間の対立に関する議論はやや観念的であり、科学的な調査結果を求める向きにはやや退屈かもしれない。
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藤岡利充, 泡沫候補 彼らはなぜ立候補するのか

2014年に毎日映画コンクールのドキュメンタリー映画賞を受賞した映画、立候補の舞台裏を綴ったもの。映画を観ていなくても楽しめる。扱っているのは、マック赤坂、羽柴誠三秀吉、外山恒一といった、ネットでも有名な画になる面々が中心。泡沫候補一般のルポタージュを期待して読むと肩すかしを食らうかもしれない。
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ダニエル・コーエン(著), 林昌宏(訳), 経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える

帯の宣伝文は "銃・病原菌・鉄" の経済版の様な印象を与えるが、方向性はだいぶ違う。全時代を通じた大きな仮説がやや弱いが、各時代の個別のエピソードは興味深いものが多い。
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ポール・コリアー(著), 中谷和男(訳), 最底辺の10億人

いわゆる開発途上国よりも悲惨な状況に置かれ、成長への道筋が見えない国々の問題点を探る。紛争の罠、天然資源の罠、内陸国の罠、悪いガバナンスの罠といった典型的な問題を解説した上で、その解決策を提案していく構成。統計データによる裏付けも豊富で、読んでいて腹落ちする。個別の国の微細な議論に陥ることなく、より高い視点から問題を捉えようとする姿勢も良い。
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根本祐二, 「豊かな地域」はどこがちがうのか 地域間競争の時代

人口コーホート図と経済センサスを用いた地域分析手法の紹介。この二つの簡易な分析だけから様々な仮説が導かれるのを見るのは爽快。
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河邑厚徳, グループ現代, エンデの遺言 根源からお金を問うこと

ミヒャエル・エンデの話は枕として使われているだけで、中心はシルビオ・ゲゼルらによる自由貨幣の話題。自由貨幣の小さな成功例とメリットばかりで、欠点や批判的な意見に触れることはない。そのため、なぜそんな素晴らしい自由貨幣が限られた範囲でしか利用しかされていないかという素朴な疑問が解決しない。全体を通じて自由貨幣支持者の取材を主要な情報源としていることもあり、参考文献も挙げられておらず、根拠が不明な記述も多い。意図的かはわからないが、自由貨幣の利点と地域通貨の利点を混同して説明して...