キャロル・キサク・ヨーン(著), 三中信宏(訳), 野中香方子(訳), 自然を名づける なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか

生物分類学の歴史を俯瞰する啓蒙書。単純に科学者の視点から最新の科学的分類学を押し付けるのではなく、人間の環世界 (umwelt) センスを基礎とした古典的な民俗分類学に敬意を払っているのに好感が持てる。

人間の環世界は、人間が生物界を認知するための基本的な手段だ。世界中どこに住む人々も、魚、鳥、ヘビ、哺乳動物など、共通した生物のグループ分けを持つ。人々はさらに、よく似た生物は兄弟として扱い、生物の姿が連想されるような名前をつけ、民俗分類の属を600以下に保ちウィリスのカーブに従わせる。

リンネの時代、科学者の生物観と一般の人々のそれは一致していた。人間と生物界に深いつながりが感じられた幸せな時代だ。続くダーウィンの時代、進化分類学は進化上の距離と人々が感じるそれが相反する生物を次々と発見した。同じオレンジ色の羽と白い斑点と黒い脈状を持つオオカバマダラとイチモンジチョウは生命の木では離れた枝に位置づけられるが、フジツボとロブスターはどちらも甲殻類でごく近い親戚だ。次いでコンピュータの浸透と共に生まれた数量分類学は、厳密かつ客観的な分類学を提供した。形質の相関に基づく分類は、形質の選択そのものに主観性が残るものの、分類学に新しい視点を持ち込んだ転回点であった。そして現代、科学者たちは分岐学に行き着く。RNA塩基配列による分類は、まったく新しい生命の世界の構造を明らかにした。分岐学は古細菌 (Archaebacteria) という新たなドメインを発見し、動物・植物・菌類などを真核生物 (Eukaryotes) という小さなドメインに押し込み、魚類を葬った。環世界センスと完全に矛盾する分類体系が生まれた。

環世界センスと科学が衝突することは避けられなくなったが、これは環世界センスが不要となることを意味しない。これからも人は主観性と直感に基づいて自然を理解し続けるし、二名法は人が生物界を認識するための基礎であり続ける。

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