sociology

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辻田真佐憲, たのしいプロパガンダ

プロパガンダの中でも、音楽や映画といった娯楽による "たのしいプロパガンダ" を紹介した本。表紙もロトチェンコのパロディ。大日本帝国、ソ連、ナチ、北朝鮮、韓国、オウム真理教、イスラム国、現代日本と、さまざまな時代と地域の "たのしいプロパガンダ" を取り上げている。所変われどその本質は変わらず、人気芸能人や芸術家までをもフル活用してプロパガンダに励んでいた様子が見て取れる。また、現代の事例も取り上げられており、ロシアやウクライナのSNSを活用したプロパガンダや米国のディーバー...
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コンビニ加盟店ユニオン, 北健一, コンビニオーナーになってはいけない 便利さの裏側に隠された不都合な真実

コンビニの告発本。コンビニ全般ではなくセブン‐イレブンに偏っており、ファミリーマートの事例が少々ある程度。また、加盟店オーナー側の主張がほとんどで、フランチャイズ側の言い分はほぼなし。それでも、具体的な事例が多数掲載されており、告発本としての意義は果たしている。いわゆるコンビ会計などのよく知られた問題に加え、加盟店の財務諸表で本来買掛になるべき部分を与信として金利を発生させているという問題に踏み込んでいるのは興味深い。
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堤未果, (株)貧困大国アメリカ

ルポ 貧困大国アメリカ IIに続いてもう一冊。シリーズ完結編で、貧困を生み出す巨大企業と政府の癒着を見事に描ききっている。大企業に絡め取られる農場経営、GM種子による食の支配、切り売りされる公共サービス。どれも現在のアメリカを理解する上で欠かせないものばかり。特に公共サービスの崩壊については、民間企業が運営する自治体Public Private Partner (PPP) の動向も取り上げられており興味深い。
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堤未果, ルポ 貧困大国アメリカ II

ルポ 貧困大国アメリカの続編。今回は、学資ローンによる借金地獄、社会保証の崩壊による高齢者の転落、借金漬けにされる囚人たちなどが新たに取り上げられる。前巻に引き続き、医療改革が一向に進まない理由についても語られる。どれも近い将来に日本が同じ道を辿りかねないものである。
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パオロ・マッツァリーノ, エラい人にはウソがある 論語好きの孔子知らず

神格化されている孔子の実像に迫ろうという試み。文章はいつもの軽いノリだが、文献調査もしっかりしており内容はマトモ。そもそも孔子の生涯は謎な部分が多く、有名なエピソードも裏付けがないものが多い。それでも史料を追っていくと、正式に礼法を学んだこともない一介のマナー講師にも関わらず礼法による平和的天下統一を目指した変わり者という実像が見えてくる。論語を用いた道徳教育へのツッコミも頷けるところが多い。美化されない等身大の孔子の姿と論語の原典をそのまま受け入れることで学べることは多い。
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荻原博子, 隠れ貧困 中流以上でも破綻する危ない家計

タイトルにもなっている「隠れ貧困」の定義がはっきりしない。本文から推定するに、収入が人並み以上にもあるにもかかわらず貯蓄ができていない人々を指すようだが、閾値が不明。定義できていない以上、当然データを用いた議論はなく、実在が不明な「隠れ貧困」の事例やQ&Aだけが続く。
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橘玲, もっと言ってはいけない

言ってはいけないの続編。取り上げている話題には曲がりなりにもエビデンスが用意されているが、やや理論が飛躍していたり、アクア説などまだ異論も多い学説に入れ込んでいたりと、首をかしげるところも多い。それでも読み物としては申し分なし。
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佐藤優, いま生きる「資本論」

読む順序が逆になってしまったが、いま生きる階級論の前著。1930年代の日本資本主義論争まで遡った資本論の読み方を説く。天皇制の打破による日本の資本主義社会化の後に社会主義革命を目指す講座派と、すでに権力の実態を持っている財閥を即座に打破する社会主義革命を志向する労農派。それらの対立が資本論の読み方に強い影響を与えている。人生を楽にするために資本論を読もうという提案も興味深い。資本主義のからくりを知ることは、資本主義社会の中で自分の置かれた状況を客観視することにつながる。資本主...
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森博嗣, 「やりがいのある仕事」という幻想

森博嗣らしい醒めた仕事論。仕事はあくまでも働いて金を儲ける行為であり、それ以上の意味付けを否定する。好き嫌いがはっきり分かれそうではあるが、著者本人がその思想に基づいて幸福度の高い生活を送っていることは注目に値する。
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川端裕人, PTA再活用論 悩ましき現実を超えて

PTA本では珍しいポジティブなPTA参加録。PTAの「強制加入問題」に疑問を持つ身でありながらPTAを高く評価していることは特筆に値する。ヒエラルキーのない横並びの組織、ボトムアップ型の構造など、実態はさておき理念としては賛同するのは理解できる。また、社会的な立場を超えて成立する共同体が貴重な機会だというのもよく分かる。それでも、 現状のPTAの 義務・強制・負担の原因となっている「強制加入問題」を解決し自由な入退会を実現した上でPTA上手く活用していこうという論はやはり楽観...