三井誠, ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から

創造論を信奉するキリスト教根本主義や温暖化をでっちあげと批判する大統領など、米国を覆う科学不信に迫ったドキュメンタリー。

これらの科学不信の原因は知識の有無ではないかと思いがちだが、問題はそう単純ではない。そもそも人が知識に基づいて理性的に行動する存在というのが思い込みで、何かを決めるときに理性に頼る啓蒙主義も18世紀から広がった最近の流行に過ぎない。学校の先生から教えられた直感と反する進化論よりも、最も身近で信頼できる親から教えられ直感にも合う創造論を信じてしまう子供がいるのも不思議ではない。

政治的な観点からは反エリート主義と知性への反発がある。米国の民主主義の源流には欧州貴族への反発があり、権威への反発は容易に知性への反発に至ってしまう。かつてのタバコ業界のように自分たちの利益のために反エリート主義につけ込もうとする人たちもいる。

最近の科学が産業活動に伴う環境の悪化を暴き始めたのも大きな材料だ。政府の規制に反対する保守派が、環境保護を求めて自由な産業活動を脅かす「緑の恐怖」へ反発するのも無理はない。さらには、同じく環境規制や進化論を嫌う福音派も手を組み、共和党の支持基盤を形作っている。

科学者の側にも問題がないわけではない。近代科学は論理 (Logos) に大きく偏っており、コミュニケーションに必要な信頼 (Ethos) や共感 (Pathos) を軽視してきたのは否めない。

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