J. アルバート, J. ベネット, メジャーリーグの数理科学 (上巻・下巻)

野球の記録ヲタクを自認するのならば必ず読むべき本。野球の統計データに関する多くのトピックを扱っており、十分な読み応えがある。

特に力説されているのが、観測された確率 (記録に残っている打率や勝率) と、真の確率 (実際にヒットを打つ確率や勝利する確率) の差を明確に区別することの重要性。今までの野球解説はほぼ例外なく観測された結果のみに基づいて議論しているが、実際にはその結果には乱数による揺らぎが大きく影響していると考えるべきであり、試行回数が少ない場合はなおさらである。統計学的に考えれば当然のことなのだが、こと野球になるとなぜかこの確率的なばらつきが軽視され、すべてが必然であると見なされがちである。

本書では、野球のプレイをランダムなモデルと考えたシミュレーションを数多く行っており (このメタファとして卓上野球ゲームのスピナーが用いられているのは見事) 、真の能力が同じであっても結果は大きくばらける可能性があることを証明している。

また逆に、観測された結果から真の確率を推定する方法も興味深い。例えば、682打席で0.422の出塁率が観測された1999年のロベルト・アロマーの真の出塁率は、95%の信頼区間で0.422±0.037であるとしか推定できない。おそらく多くの野球ファンはこの精度の低さを無視している。

その他にも、得点算出のシミュレーションモデル、勝負強さの評価、1プレイごとの平均得点など、記録ヲタクの心をくすぐるトピックが溢れている。この項目を見ただけでぐっときた向きは買って損なし。

ただ、一つだけ残念だったのはtypoが目に付くこと。売り時を逃せない時事本でもあるまいし、もう少し校正をしっかりやって欲しい。

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