川島浩平, 人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか

オリンピックの100m決勝だけを見て黒人の先天的な運動能力の高さを語る向きもあるが、ことはそう単純ではないことが良くわかる。

まずは本書の大部を占める環境要因。黒人社会でその種目が選択されるに至る社会的背景が大きな要因となっていることは否定できない。一昔前はボクシングの世界王者を黒人が占めていることが黒人の運動能力の高さを示していると言われていたが、多くの黒人がボクシングの道へ進む動機を失った現在では、黒人の世界王者はむしろ少数派となっているのがその一例。陸上競技の道へ進む黒人が減った際に、100m決勝から黒人が消える可能性は十分にある。

また、黒人の全てが陸上競技で高い能力を示しているわけではなく、有力選手の出身がごく一部の地域に偏在しているのはジョン・エンタインの著書でも語られている通り。

社会学的な視点から黒人の運動能力を探る試みは非常に興味深く、またその試みに成功していると言っても良い。強いて難点を挙げるのならば、遺伝子科学には (僅かな情況証拠を除いて) 殆ど触れられていない点が片手落ちに感じる。このあたりは別の書籍も併せて読む必要がある。

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