ビル・パーキンス(著), 児島修(訳), DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール

今までのマネー本はいかに資産を増やすかばかりで、その使い方についてはファイナンシャルプランナーに相談して必要な金額を見積りましょうとアドバイスするのがせいぜいだった。一方で本書はいかに資産を有効に活用して豊かな人生を送るかを述べている。そのメッセージは明快で、経験に投資をしろというもの。この方針はモノよりも経験に投資することが幸福度を高めてくれるという近年の幸福度の研究とも整合している。経験は記憶として残り、常に思い出を通して人生の出来事を再体験できる。

自身の体験以外に家族の経験への投資も有力な選択肢となる。漫然と過ごしていると自身の死後に家族に遺産を相続することとなるが、本書は生前に贈与することを勧めている。というのも、お金の価値を最大化できるのは子供が26-35歳のときだからだ。もちろん分別がない若すぎる時期に相続するのは得策ではないが、子供が60歳近くになってから遺産を相続しても、十分な経験に変えることはできない。そのバランスが取れるのが26-35歳の頃になる。

では、自身が何歳頃から (贈与分を除いた) 資産を取り崩し始めるべきかというと、45-60歳が最適となる。それを過ぎてしまうと、もはや金から楽しみを引き出す能力が失われてしまう。時間と金があっても健康があるとは限らない。また実際のところ、先延ばしできない経験も多い。子どもたちとの経験を楽しむことなどはその端的な例だろう。

この考え方を発展させたのが本書の提案するタイムバケットだ。これは名前から分かる通り、棺桶リストの影響を強く受けているが、5年または10年区切りのタイムバケットにやりたいことを入れていくのが最大の違いだ。実際に棺桶リストをタイムバケットに当てはめてみると、特定の時期でないと実現できないものがあるのがよく分かる。

もちろん、早期の取り崩しを実践するには死亡年齢や必要資産の緻密な見積もりが必要となるが、その点はやや楽観的な立場を取っている。リタイア直後のゴーゴーイヤーを過ぎれば行動は穏やかになるものであり、当然支出は抑えられる。また、資産運用によりインフレ率+3%程度の運用益を得られるものと見込んでいる。この前提での試算により、残りの人生での生活費の70%程度を必要額と算出している。それでも不安な向きには、長寿年金の活用も進めている。

総じて実に刺激的な本であり、今まで意識的にお金を使うことを考えてこなかった人は人生観すら揺さぶられることになるだろう。

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