anthropology

book

ダニエル・L・エヴェレット(著), 屋代通子(訳), ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観

いわゆる普遍文法の枠に納まらない (と主張される) ピダハン研究の第一人者による著作。一般向けの啓蒙書で、現地のエピソード中心のため、言語学の知識がなくても楽しめる。 他の多くの言語に見られる数の概念、創造神話、再帰、間接的な体験の表現といった多くの要素が欠けているとされるピダハンの存在には、専門の学者ならずともワクワクさせられる。また本書ではあまり詳しく語られないが、キリスト教の伝道師として現地入りした著者が逆に改宗に至ったというエピソードも実に興味深い。
book

原田実, 江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統

著者はASIOSの中の人。 江戸しぐさの矛盾や嘘を暴くだけにとどまらず、それが生まれた背景まできちんと踏み込む姿勢が良い。ところどころに独善的な推理が見られるところがやや難か。
book

斎藤環, 世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析

ヤンキーの "女性性" を柱に据えた論考集。 定性的な分析のみでところどころ論理の飛躍が過ぎるが、切り口は興味深い。学術的な意味はさておき、読み物としては面白い。
book

高野秀行, 移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活

日本に移り住んだ外国人の食生活のルポ。それも、お国の料理だけではなく、日本での普段の食生活にスポットを当てたところがお見事。アジアから欧州まで様々な国の出身者が見せる料理の数々やその人柄に一気に引きこまれてしまう。
book

渡辺靖, アメリカン・コミュニティ 国家と個人が交差する場所

ゲーテッド・コミュニティ、ビッグスカイ・カントリー、メガチャーチなど、現代のアメリカの大きな問題を象徴するコミュニティへの訪問記。各コミュニティの滞在期間は短いが、その特徴はよく伝わってくる。読み物としても申し分ない面白さ。 各コミュニティの総括は終章で語られるが、これは紙幅が限られていることもあってか、やや消化不良な印象。
book

生田武志, ルポ 最底辺 不安定就労と野宿

著者は野宿者支援活動を進めている方で、特に日雇い労働問題に詳しく、自身も学生時代から釜ヶ崎での日雇い生活を体験している。そのためか、様々な不安定就労の中でも特にドヤ街での日雇い労働生活とそこからの野宿への転落に深く切り込んだ内容となっている。 野宿生活に陥るまでの流れやそれに対する行政の不備は非常によく分かるが、労働者やその支援者の視点からしか語られていないのがやや残念。行政側の論理も取り上げられれば、より深い考察ができたものと思う。
book

礫川全次, 隠語の民俗学 差別とアイデンティティ

在野の研究者による隠語の世界への導き。先人の研究からきちんと解説しているので、初学者でも楽しめる構成となっている。 隠語の性質上、記録が少なく想像に頼らざるをえない部分が多いとはいえ、語源の推定などでやや論理が飛躍している箇所が見られる。
book

石毛直道(監修), 吉田集而(責任編集), 講座 食の文化 第1巻 人類の食文化

味の素食の文化センターの設立10週年を記念して企画されたシリーズの一冊目。 人類の食文化という非常に大きく野心的なテーマを掲げており、地理や歴史はもちろんのこと、考古学から言語学まで様々な方面から仁るの食文化を捉えている。著者陣も非常に豪華で、その道を代表する面々ばかり。 気軽に手に取る種類の本ではないが、食に興味がある方はぜひ一読して欲しい。食を捉える視点が広がることは保証できる。
book

梅棹忠夫, 文明の生態史観

いまや古典とも言えるヨーロッパからアジアにかけての文明に関する論考。 西洋と東洋という従来の分類に代わる、第一地域と第二地域という新たな枠組みは今読んでも新鮮。特に、日本がならった古代帝国の中華との関係と西ヨーロッパ諸国とローマ帝国との関係の類似性の指摘は唸らされる。 本書で示されているのはあくまでも大きな骨格のみであり、これだけで世界全てをつかめる様なものでもない。例えば、アメリカ大陸やアフリカ大陸については触れられておらず、これらは他の論者の文献で補う必要があるだろう。
book

荒川美幸, 国際結婚残酷物語 中国のど田舎に嫁いだ私

"中国のど田舎に嫁いだ私" というサブタイトルからは中国の奥地に移住した様な印象を受けるが、実際には中国人夫のパスポート発行までの僅かな期間を過ごしたのみ。 それでも、中国との文化摩擦の読み物としては面白いし、本人の本音がそこここに滲み出ている文章も悪くない。