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小牟田哲彦, 鉄道と国家 「我田引鉄」の近現代史

政治の視点から見た鉄道史。鉄道絡みの歴史上のエピソードには興味深いものが多く、単純に読み物として面白い。歴史を辿り、限られた証拠から関係者の思惑を読み解き、と文句なし。ただし最終章の "海外への日本鉄道進出" は唐突に外交に関する私見が始まり、やや蛇足感がある。
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ジョージ・ソーンダーズ(著), 岸本佐知子(訳), 短くて恐ろしいフィルの時代

奇妙な童話風の物語として始まるが、その裏はどろどろしたものが詰まっている。普通の人間がちょっとしたきっかけで簡単に独裁者となってしまう様子が見事に描かれている。内容も良いが、翻訳も装丁も水準以上。
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野口悠紀雄, 経済危機のルーツ モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか

1970年代以降の世界経済史。まさにその時代を生きてきた著者の生の感覚や体験談が興味深い。歴史の延長として見た未来に向け日本がなすべきこととして、衰退産業への支援の中止、資本や人的資源のグローバリゼーション、専門教育への投資が挙げられている。いずれも目新しい提言ではないが、歴史を振り返ればそれらがまさに正論であることがよく分かる。
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山本皓一, 日本人が行けない「日本領土」 北方領土・竹島・尖閣諸島・南鳥島・沖ノ鳥島上陸記

日本の離島を扱っているが、興味本位での上陸ではなく領土問題に関する政治的なメッセージを強く含む本。2007年の著作だが、今の情勢から見てもあまり古くなっていない。第1次安倍内閣時代の安倍総理を含む、領土問題に関連の深い政治家との対談を多数含んでいるのも特徴。
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増田弘(監修), なぜ世界で紛争が無くならないのか

日本でもニュースでよく取り上げられるものの、その背景がよくわからない世界の7つの紛争、"アラブ対イスラエル"、"アメリカ対イラク紛争"、"朝鮮半島危機"、"台湾海峡危機"、"日中危機"、"アフリカの紛争"、"東ティモール紛争" を取り上げて解説する。各章はそれぞれ個別の専門家が解説する形式。各章が完全に独立しており寄せ集め感は免れず、また紙幅の制限からやや踏み込みが浅いが、一冊の新書でこれだけ幅広くまとめられているのはありがたい。
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ジェームス・M. バーダマン, ふたつのアメリカ史 南部人から見た真実のアメリカ

日本人の習うアメリカ史の多くが南北戦争の戦勝国である北部視点でのもの。この視点を南部のアメリカ連合国に移してみると、全く違った景色が開けてくる。アメリカは決して一枚板などではなく、現在に至っても南北の隔たりが根強く残っていることがよく分かる。
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橘玲, 不愉快なことには理由がある

週刊プレイボーイの連載 "そ、そうだったのか!? 真実のニッポン" をまとめたもの。今回は経済系のトピックよりも政治や社会のネタが多め。進化心理学や脳科学のあたりはまだ受け売り感が残るが、読み物としては面白い。
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門井慶喜, おさがしの本は

図書館のリファレンスカウンターを舞台にした連作短編集。舞台が舞台だけに本探しにまつわるエピソードを期待してしまうが、それは序盤のみ。中盤以降は政治の話に押されすぎて本の話がどこかへ吹っ飛んでしまった。文庫一冊に様々なネタを詰め込みすぎた感がある。
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川島博之, 「食料自給率」の罠 輸出が日本の農業を強くする

「食糧危機」をあおってはいけない以来の、世界的な食料余りのスタンスは全く変わらず。今作ではそれをさらに発展させ、日本の農業を産業して成り立たせるための方策を論じる。端的に言ってカロリーベースの食料自給率を上げるということは、儲からない穀物の生産を無理に押し上げることであり、採算を取ることは難しい。無理に辻褄を合わせるのならば農地の大規模化を推し進めるしかないが、これはこれで政治的な理由により難しい。となると、現実的に可能なのはオランダ型の農業となる。オランダは穀物自給率 (カ...
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橘玲, 臆病者のための裁判入門

外国人の知人が巻き込まれた小さな民事事件に関わることとなった著者による裁判録。外国人の代理人として関わっている立場のため、日本の司法制度の問題点が非常に客観的に見えているのが良い。実際に事件に巻き込まれた場合の対処方法も参考になる部分が多い。どういった機関にどの順序で相談に行くべきかはもちろんのこと、弁護士や裁判官がどういった行動原理で動いているかも非常に重要。後半は単独の事件からは少し離れて司法制度一般の話。前半の裁判録は橘氏にしては少し珍しい内容であったが、こちらは平常営...