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長沼伸一郎, 現代経済学の直観的方法

現代経済学と銘打っているが中身はほぼマクロ経済学で、ミクロ経済学はほぼ触れられない。それでも、古典派経済学とケインズ経済学の基礎を大づかみするという目的だけに絞れば良書といえる。それぞれの経済学の生まれた時代背景も添えられているのもわかりやすい。最後の第9章のみは既存経済学の解説から離れて自説を展開しており、他の部分とだいぶ毛色が異なるので注意が必要。著者の専門である物理学の縮退や囲碁の概念を用いて経済を説明しようという試みは面白いが、別の著作で展開するべきだったと思う。
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中村富士美, 「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から

山岳遭難捜索チームLiSSの代表を務める中村氏による実録レポート。看護学校で学んだというプロファイリング術を駆使して遭難時の行動を推測していく様子は推理小説のよう。もちろん、登山者の心得としても役に立つ。欲を言えばもう少しボリュームが欲しいところで、ここは続編に期待する。
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Hayato Ito, 普通の人が資産運用で99点をとる方法とその考え方

同名のサイトに加筆して書籍化したもの。資産運用自体の考え方自体はまともなので、普通の人に勧めるには良い本だろう。ただし、税に関する記述に粗があるのは注意。いざとなればいつでも逃げられるNISAはまだしも、iDeCoのように長期間資産を拘束されるにもかかわらずコロコロ変わる仕組み (実際に退職所得控除の改悪が迫っている。特別法人税もいつ復活してもおかしくない) に対し、そのあたりの説明なしに無条件で最優先に投資するように勧めるのはあまりに楽観的すぎると思う。
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渡波郁, マンガでわかる株のキホン お嬢様 投資をはじめる! (1) (2) (3)

きちんとわかっている人の書いた投資入門マンガ。ところどころに "わかっている" というのがにじみ出ている。特に、超過収益がそう簡単には得られないという説明を徹底しているのが良い。素人が簡単に思いつくような必勝法がことごとく論破されているのが心地良い。マンガ部分の質も良い。
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広瀬友紀, ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密

言語学者が子供の言語獲得の過程を観察したエッセイ集。子供が日本語の無声音 (濁音) と有声音 (濁音) の対応のずれに気付く様子が実に興味深い。「「は」にテンテンつけたら何ていう?」という大人にとっては簡単な質問に答えられない子供が多いという現象がある。これは種を明かすと、「か-が」、「さ-ざ」、「た-だ」が正しく無声音-有声音の関係にあるのに対し、「は-ば」が全く対応していない音であるため。テンテンの正体を正しく知っている子供こそ答えられないちょっと意地悪な質問である。ここ...
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斉藤振一郎, 全国野球場巡り: 877カ所訪問観戦記

27年間に渡り、日本全国の野球場877箇所を巡り歩いた記録。そのカバーしている範囲は広く、プロ野球や高校野球で使用されている有名球場はもちろんのこと、企業や大学の私設球場や地方の名もなき球場までもが網羅されている。インターネットで球場の情報が得られない時代の記録が大半を占めており、まさに足で稼いだ労作と言える。
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藤沢数希, コスパで考える学歴攻略法

日本の教育の「攻略本」。いわゆるお受験は対象外で、中学受験を経て中高一貫校から大学に進学するか、高校受験を勝ち抜いて進学校から大学に進学するかの比較が主題。日本で育つ大多数の子供はこの二択をすることになるので、親としてももっとも関心があるところだろう。結論から言うと、ほとんどの家庭では公立中高から良い大学を目指すのがコストパフォーマンスの面からは最適になる。中学受験の費用を高校受験のための塾や大学受験のための予備校、短期留学に回したほうが効率が良い。中学受験は1,000万円程...
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ビル・パーキンス(著), 児島修(訳), DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール

今までのマネー本はいかに資産を増やすかばかりで、その使い方についてはファイナンシャルプランナーに相談して必要な金額を見積りましょうとアドバイスするのがせいぜいだった。一方で本書はいかに資産を有効に活用して豊かな人生を送るかを述べている。そのメッセージは明快で、経験に投資をしろというもの。この方針はモノよりも経験に投資することが幸福度を高めてくれるという近年の幸福度の研究とも整合している。経験は記憶として残り、常に思い出を通して人生の出来事を再体験できる。自身の体験以外に家族の...
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坂井豊貴, 多数決を疑う 社会的選択理論とは何か

誰もが疑いなく使っている多数決だが、よくよく検討してみると存外に性質の良くない集約ルールだと分かる。棄権防止性、中立性は備えるものの、ペア敗者基準、ペア勝者 (弱) 基準といった基本的な性質を満たさないという致命的な問題がある。この問題を解決もしくは緩和する集約ルールとしてボルダルールやコンドルセ・ヤングの最尤法などがあるが、直感的な理解のしやすさなどを考えるとボルダルールが現実解だろうか。これだけ問題のある多数決が広く採用されているのは、もちろんそのわかりやすさに依るところ...
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飯山陽, イスラム2.0 SNSが変えた1400年の宗教観

イスラム教は神の言葉を書き留めたコーランや預言者ムハマンドの言行録であるハディースといった啓示に従うのがその本義である。ところが、発祥以来1400年間のイスラム1.0は啓示の知識を法学者が独占することで、イスラム法と啓示の乖離を許容しながらも現実と折り合いをつけ、社会の安定に努めてきた。しかしながら、インターネットを通じて啓示テキストに簡単にアクセスできるようになると、原理主義的なイスラム2.0が台頭してくるようになった。このイスラム2.0の最も先鋭的な姿がジハード主義者であ...