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ヴァレリー・ラルボー(著), 岩崎力(訳), 罰せられざる悪徳・読書

教養人となるための読書論。読書との出会いから教養あるエリートとなるまでの典型的なコースが示されているのだが、その中で挙げられている訪れやすい困難や誘惑は実に身につまされる。稀覯本や初版本の収集といった愛書趣味、博識への傾倒、虚栄心を満足させるための批評などの様々な誘惑に捕らえられていないか、自身の読書スタイルを見直すきっかけには良い一冊。おすすめ。
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ロバート・クーヴァー(著), 越川芳明(訳), ユニヴァーサル野球協会

学生時代に読んで衝撃を受けた色川武大の "ひとり博打" (に収録) 。その野球版とも言える本作の存在を知ったのは数年前だが、既に絶版となっていたこともあり、読む本リストに積まれたままの状態となっていた。しかしながら読み終えた今、それが大失敗だったことに気づく。もっと早く読むべきだった。サイコロとチャート (一覧表) を使って架空の野球リーグを運営するという魅力的な遊びは、子供の頃に誰でも一度は試みたことがあるだろう (もちろん、私もやったことがある) 。そういった遊びに惹かれ...
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紀田順一郎, 東京の下層社会

ほんの少し前、昭和戦前頃の東京の極貧階層がどのような生活をしていたのか。東京三大スラム、残飯生活、もらい子殺し、搾取される娼妓達、製糸工場の女工のタコ部屋など、読むだけで気分が悪くなる内容。しかし、これが高々100年前の現実なのだ。極貧階層の生活だけではなく、当時の福祉政策のお粗末さについても十分な記述があり、よく理解できる。おすすめ。
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安岡孝一, 安岡素子, キーボード配列QWERTYの謎

恥ずかしながら、私も本書を読むまでは「タイプライターのアームが絡むのを防ぐために、打ちにくいQWERTY配列が作られた」という俗説を信じていた。本書は、タイプライターやテレタイプの歴史を丹念に追いかけることで、その俗説が誤りであることを示してくれる。また、その誤りを正すだけにとどまらず、件の俗説がどのように生まれ、一人歩きしてきたかについても徹底した調査を行っているのが興味深い。圧巻なのはその参考文献の量。500件近くの文献を調べ上げた労力には素直に脱帽させられる。キーボード...
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高野陽太郎, 鏡の中のミステリー

鏡に映った自分が上下は変わらないのに左右が逆転したように見える、という古典的な謎に答える本。従来述べられてきた仮説 (たとえば人間の体がほぼ左右対称なことに起因するという対称仮説など) がきちんとサーベイされ、それぞれの問題点もよくまとまっている。それらを踏まえて提唱される、筆者独自の多重プロセス理論は見事。人間が無意識のうちに、自身の鏡像と文字の鏡像を全く異なる座標系を用いて処理しているという事実は、指摘されるまでなかなか気づくものではない。
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間羊太郎, ミステリ百科事典

寝る前に少しずつ読んでいたら半年近くかかってしまった (他の本に浮気もしていたが) 。ミステリでよく見られるトリックやモチーフを網羅した、まさに百科事典の名にふさわしい作品。700ページ超のボリュームはダテではなく、名作ミステリはもちろん映画や落語のネタまで取り上げられており、著者の博識がうかがえる。巻末には妖怪学入門も収録され (これだけで別冊にできるほどのボリュームがある) 、読み応えも充分。
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E.F.シューマッハー, 小島慶三(訳), 酒井懋(訳), スモール イズ ビューティフル 人間中心の経済学

1973年に出版された本だが、今読むとまるで予言書のよう。工業資源、特に石油についての指摘は今の時代にもそのまま当てはまる。さらに、「組織と所有権」と題して論じられる大規模組織や公共機関のあり方なども学ぶことが多い。文庫なのに1,200円もするのはアレだが、内容は間違いなくお勧めできる。
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橋本進吉, 古代国語の音韻に就いて 他2篇

既に絶版なので古書で入手。表題作の "古代国語の音韻に就いて" は、万葉仮名の上代特殊仮名遣の研究成果をまとめたもの。講演録を元にしているため、部外者にも読みやすい。上代特殊仮名遣とは、現代五十音の一部において、古代国語で甲類と乙類の万葉仮名の書き分けが見られる現象のこと。具体的には、エ、キ、ケ、コ、ソ、ト、ノ、ヒ、へ、ミ、メ、モ、ヨ、ロの14音について、甲乙の万葉仮名の書き分けが見られる。この書き分けの理由は音韻 (発音) が甲乙の二種類に分かれていたため、とされる。
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サイモン・シン, 青木薫(訳), 暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで

フェルマーの最終定理のサイモン・シンの作品。古典的な換字式暗号から量子暗号まで、暗号の歴史とそれにまつわるドラマのわかりやすい解説。前作同様、複雑な数式なしで読める構成は見事。おすすめ。
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ウォルター・ブロック, 橘玲(訳), 不道徳教育

リバタリアン (自由原理主義者) である著者が、「自由」とは何であるかを語るため、あえて本来は不道徳と思われる者たちを擁護する。売春婦、麻薬密売人、恐喝者、ダフ屋、闇金融、幼い子どもをはたらかせる資本家等は、現代社会では不道徳と見なされているが、リバタリアンの視点から見ればどれも何の問題もない人間同士の自発的な取引に過ぎない。本書は橘玲氏のカラーが強く出た一冊となっている。翻訳はかなりの超訳で、日本の現状に合わせた大幅な改版をおこなっている (例えばSlandererとLib...