sociology

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マルク・レビンソン(著), 村井章子(訳), コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった

現在では海運を中心に広く利用されグローバル・サプライチェーンを支えている貨物コンテナが世界を席巻するまでの流れを、実質的な発明者であるマルコム・マクリーンを中心に描いたもの。発明から普及までの正の部分だけでなく、コンテナ普及の抵抗勢力である労働組合や当局との闘いなどの負の部分が丹念に取り上げられているのも興味深い。企業の経営者が書評で絶賛するのがよく分かる。おすすめ。
comic

吾妻ひでお, 失踪日記2 アル中病棟

失踪日記の続編。ギャグマンガ仕立てとなっているので気楽に読んでしまうが、立ち止まって考えると非常に重い内容であることに気付く。ドキュメンタリとしてもマンガとしても見事な出来。おすすめ。
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小池和男, 日本産業社会の「神話」 経済自虐史観をただす

日本は集団主義の国、日本人は会社人間、長時間労働が競争力を強化、成長は政府のお陰、といった当然の前提のように思われている事項への反論。虚心にデータを眺めることで、新たな事実が見えてくる。特に興味深いのは、企業内の査定方法の日米比較。日本は独自の慣行から海外に例を見ない年功賃金を生み出したという説が唱えられることがあるが、関連研究を丹念に追っていくと、事はそう単純ではないことが見えてくる。
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タイラー・ハミルトン(著), ダニエル・コイル(著), 児島修(訳), シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕

元トップ選手による自転車界のドーピング暴露本。当時の自転車界にいかにドーピングが蔓延していたかがよく分かる。単なる暴露本としてだけではなく、タイラー・ハミルトンの半生記としても非常に良質なものに仕上がっている。
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川島博之, 「作りすぎ」が日本の農業をダメにする

「食糧危機」をあおってはいけない、「食料自給率」の罠に続く農業政策本。世界的に食料が余っているという現実と今後も過剰生産が続くという見通しの下、これからの日本の農業の形を探っていく。日本の農業の構造的な問題にも触れており、政治的な視点もある良書。おすすめ。
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梅棹忠夫, 文明の生態史観

いまや古典とも言えるヨーロッパからアジアにかけての文明に関する論考。西洋と東洋という従来の分類に代わる、第一地域と第二地域という新たな枠組みは今読んでも新鮮。特に、日本がならった古代帝国の中華との関係と西ヨーロッパ諸国とローマ帝国との関係の類似性の指摘は唸らされる。本書で示されているのはあくまでも大きな骨格のみであり、これだけで世界全てをつかめる様なものでもない。例えば、アメリカ大陸やアフリカ大陸については触れられておらず、これらは他の論者の文献で補う必要があるだろう。
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田村亮, 28歳で政治家になる方法 学歴・職歴・資格一切不要! 25歳以上なら誰でもなれる!

市議会議員を就職先の一つとして捉えた指南本。着眼点は面白いが、経験則中心で客観的なデータがほとんどないのが残念。著者は選挙用品ドットコムの代表でもあるので、そのバイアスがかかっている点には注意。ネットだけの選挙活動を酷評しているのもそのあたりに理由があるのかもしれない。
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向井蘭, 社長は労働法をこう使え!

労働者側ではなく使用者側の視点での労働法解説。立ち位置としては労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応に近いか。参考文献が示されておらず情報源が不明な部分が多いため、どこまで鵜呑みにして良いかはよく分からない。また、一部の例外的な問題労働者を一般化している様に見える箇所も散見される。これらの欠点を除けば案外穏当な内容。使用者寄りと言いながらも、 解雇権と比べて人事異動等の権利が強すぎる点や、過去の判例を重視せざるを得ない裁判システムの問題も指摘している。
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ゲーリー・S・ベッカー(著), リチャード・A・ポズナー(著), 鞍谷雅敏(訳), 遠藤幸彦(訳), ベッカー教授、ポズナー判事のブログで学ぶ経済学

The Becker-Posner Blogのより抜きを翻訳したもの。後半にはベッカー教授のBusinessWeek誌の連載も収録。Blogは双方がやや遠慮しているせいもあるのか、激しい討論というよりはやや落ち着いた議論となっている。率直な深い議論が行われているのはむしろ後半のベッカー教授の単著の部分。こちらは視点も論理展開もなるほどとうならせるものが多い。
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小松正之(著), 日本水産学会(監修), よくわかるクジラ論争 捕鯨の未来をひらく

捕鯨問題の入門書。国際捕鯨委員会 (IWC; International Whale commission) の一線で活躍している著者だけあり、科学的な調査法から各国の捕鯨の歴史まで、およそひと通りの基礎が網羅されている。一つ難を挙げると、日本側の見解に偏り過ぎている感はある。他国の主張について主観で断定している箇所が見られるため、この部分は他の文献で補う必要があるだろう。