sociology

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太田さとし, 内部告発マニュアル

非常に実践的な内部告発指南本。無闇に内部告発を煽るのではなく、きちんとリスクを考慮した上での最終手段として位置付けているのは良心的か。内部告発以外の職場環境改善の手段も各種論じられているので、内部告発など考えてもいないが少しでも改善できれば、という向きにもおすすめできる。
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清永賢二, 清永奈穂, 犯罪者はどこに目をつけているか

元警視庁犯罪予防研究室長の肩書きを持つ著者による犯罪予防論。何と言っても見どころは経験豊富な犯罪者による解説。彼らがどのような視点でターゲットを選定し、計画を立てるのか、また何を嫌うのかは非常に興味深い。
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ジョージ・ソーンダーズ(著), 岸本佐知子(訳), 短くて恐ろしいフィルの時代

奇妙な童話風の物語として始まるが、その裏はどろどろしたものが詰まっている。普通の人間がちょっとしたきっかけで簡単に独裁者となってしまう様子が見事に描かれている。内容も良いが、翻訳も装丁も水準以上。
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中村敏雄, スポーツルールの社会学

中村敏雄によるスポーツ論考集。専門としているスポーツルールを表題として掲げているが、内容は近代スポーツにおける人工化やそれに伴う場外も含めた平等を中心に論じている。近代スポーツの創出そのものを人工化の過程とみなし、その行き過ぎを危惧する提言は、まさに現在の状況を言い当てている。おすすめ。
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山岸俊男, 日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

よくある日本人論に対する疑問と社会心理学の視点からの回答。数々の実験結果を通じて、日本人が本質的には集団主義者などではなく、一見集団主義的に見える行動も閉鎖的な安心社会という環境に適応しただけに過ぎないことを明らかにする。雰囲気だけで科学亭な根拠に欠けるの武士道礼賛に対するチクリとした批判も良い。
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いがらしみきお(作画), 山上たつひこ(原作), 羊の木 (1)

あまりに豪華な組み合わせに惹かれて読み始めたが、これが大当たり。出所者に対して一般市民が抱く漠然とした不安感をこれでもかと繰り返す構成に完全に引き込まれてしまう。
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筒井哲也, 予告犯 (1)

現代社会の鬱屈としたところをテーマに切り出した作品。ネットや犯罪に関する細かな描写の正確さが見事なリアリティを生んでいる。その分風化が早そうなのが心配ではあるけれど。小難しいことを抜きにして、エンターテイメントとしてみても非常に上質。おすすめ。
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神戸幸夫, 転落 ホームレス100人の証言

東京周辺でのホームレス100人へインタビューをまとめたもの。基本的に裏をとらずにインタビュー内容をそのまま信じている (と思われる) 内容なので、少し割り引いて読む必要があるかもしれない。それでも事例集として非常に興味深い。購入したのは初版だが、校正不足が目立つのが残念。
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荒井一博, 学歴社会の法則 教育を経済学から見直す

まずは表題ともなっている学歴社会の "法則" 。人的資本論やシグナリング理論といった主要な学説に加え、両親の学歴と子供の学歴の関係などをデータに基づいて論じる。このあたりは著者の専門分野でもあり、納得できる内容。後半は教育にまつわる雑多な話題をいくつか。経済学の視点からのバウチャー制度批判やいじめ対策、学級規模の最適化などは文献もきちんとしており非常に興味深い提言となっている。一方、著者の思い入れが感じられる英語教育論は個人的な経験に偏りすぎているように見える。随筆として読む...
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石井光太, ニッポン異国紀行 在日外国人のカネ・性愛・死

在日外国人にスポットを当てたルポタージュ。著者が過去に海外の貧困をテーマに掲げたノンフィクションを書いていたのと関係するのかもしれないが、在日外国人一般ではなく貧困層を選択的に取材している様に感じる。それらを週刊誌的な記事と割りきって眺めるのには良い。