小野俊哉, プロ野球解説者の嘘

流行のセイバーメトリクス系の本だが質は低い。基礎的な統計データの取り扱いが出来ていない。

全体を通じて、統計的仮説検定に必要な対照群が設定されない議論がほとんどのため、都合のよい数値だけを抜き出している印象が拭えない。例えば第一章では1, 2番の出塁と3~5番の安打が勝敗に同程度の影響を与える主張しているが、1, 2番の安打や3~5番の出塁、6番以降の打撃成績にどの程度の影響があるのか語られることはない。第五章では過去の四割打者や高打率打者は打数が多い試合での打率が高いと主張しているが、そもそも多くの打席が回ってくる試合は投手が不調であったり敗戦処理投手との対戦が含まれるので、その他の打者の打率も上がっているはずである。しかし、一部の高打率打者のキャリアハイのシーズンのデータしか示されない。第六章では活躍した外国人選手 (具体的な定義が書かれていないので、恣意的に選んでいるものと思われる) は対右投手打率が高いと主張するが、活躍できなかった外国人選手や活躍した日本人選手のデータは示されない。

また、著者のお気に入りの選手や監督を持ち上げるために都合の良い指標だけを意図的に抜き出していると感じる箇所も多い。第二章では優勝するためには僅差の投手戦を制する必要があるという論を展開しているが、著者の主張するように著者のご贔屓の監督の采配により意図的に接戦をものにしていたのか、結果として偶然に投手戦の勝ちが多かったチームが優勝していただけなのかの分析は全く行われない。第三章では三振/本塁打比率に着目し、超一流選手はその値が低いと論じているが、その理由は王貞治の三振/本塁打比率が低いとしか述べられない。四球が多い超一流打者はこの値を下げないと本塁打数が増やせないというような主張に読めないこともないが、大量の四球を稼ぎながら三振と本塁打の両方が多い選手など中村剛也をはじめいくらでも見つかる。第四章では、マリナーズが勝てないのはイチロー以外の打者の出塁率が低いせいだと言いながら、その説の補強に突如として異なる指標 (それもチームの勝敗とは相関が低いことが証明されている指標が中心) を持ち出し、打撃3タイトルや防御率1位を獲得した選手達の所属チームの優勝率は高くないなどと言い出す。第六章の外国人選手の評価では、贔屓の球団を持ち上げたいがためにか、選手のタイプや年俸はおろか獲得人数すら無視して各球団の外国人選手の総本塁打数を比較している。さらには完全な憶測だけで、贔屓チームの外国人選手との契約内容を褒め称えるのも驚き。

セイバーメトリクスを理解しておらず、基本的な調査もしていないと思われる記述も多い。第五章では四割打者をテーマに掲げているが、この種の議論の基礎となる傑出度などに触れることはない。第八章は完全な誤解。セイバーメトリクスでは得点期待値を最大化するには送りバントは不利とするのが一般的だが、本書では得点期待値と得点率を混同しており、送りバントをした方が得点率が高いのでセイバーメトリクスは誤りだとしている。念のために書くと、送りバントをすることで得点期待値を下げる代わりに得点率を上げる戦術が有効な局面があることは既にセイバーメトリクスでも認められている。

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