松原仁(編著), コンピュータ将棋の進歩

本棚を整理して発掘された1996年発行の幾分古い本だが、小谷善行による “コンピュータ将棋の今後” と題した予測が興味深いので紹介したい。この記事で小谷はコンピュータ将棋の棋力が最も強い人間 (最強の棋士) に達するのはいつ頃かを単純な外挿で予測しているが、結果としてこれが正解であった。

コンピュータ将棋は1986年ごろにアマ10級程度の強さで始まり、この記事の描かれた1995年にはアマ2段近くの強さに達している。これはレーティングでは600と1700程度に相当するため、年率でレーティング100程度づつ強くなっていると言える。ここで、飯田弘之棋士 (当時は休業中) の推定に基づきプロ6級をアマ4段として換算し、さらにプロの段位による実力差をアマと同等の幅と仮定することで、羽生名人のレーティングを3466 (プロ10.66段) 程度と見積もっている。これらの仮定により、レーティング差1800弱を埋めるのに単純計算で18年を要し、2013年頃にはコンピュータ将棋が最も強い人間に達すると予想している。2013年に行われた電王戦の三浦弘行8段とGPS将棋の勝負の結末を見れば、ほぼ正解と言って差し支えないだろう。

また興味深いのは、コンピュータ将棋協会内のアンケートの結果よりも単純な外挿のほうがはるかに精度が高かった点である。これは単に分散が大きいというだけではなく、集合知として集約しても外挿に勝てそうにない。協会員の多くはアマ有段者であり、コンピュータにも造詣が深い人々であるが、それであっても単純な外挿に敵わなかった点は示唆に富む。

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