巷の子育て本には出所不明な情報も多く、どうにも腹落ちがしないので、少し硬めの本書に手を出してみた。既に絶版になっており中古も結構な値段なので、地元図書館で拝借。
“育児のしかたが子どもの性格と将来を決定する” といういわゆる子育て神話や、”出生順位が性格に影響を与える” という出生順神話を徹底的に疑ってエビデンスを求めていくと、実は神話の根拠が極めて心もとないものであることが分かる。
子育て神話が生まれた大きな要因は、育児のしかたと遺伝の混同。愛情豊かな親は愛情豊かな育児を行うと同時に、その豊かな愛情を遺伝させていることが (意図的か無意識かはともかくとして) 見落とされてきたのだ。また大きな影響を与えうる家庭外の仲間集団も育児のしかたと大きな相関があり、混同されがちである。双生児や養子の研究を通じてそれらを切り分けると、育児の与える影響は (虐待などの極端に問題のある家庭を除けば) 極めて限定的であることが明らかとなる。
出生順神話の源は、統計的な誤りと親の観察に頼った性格判断。社会経済的地位により出生数が大きく異なるため本来は統制が必要なのだが、多くの研究がそれを怠っている。統制なしでは、出生数が少ない上流階層は長子の割合が相対的に高くなり、階層の性質が長子のものと混同されてしまう。また、多くの子どもは家庭内外で異なる社会的役割を持っており、その性格もまったく異なることが多い。家庭内での性格しか知らない親の判断はバイアスに満ちている。
エビデンスに乏しい発達心理学の分野を科学の目で見つめ直した本書の功績は素晴らしい。決して読みやすい本ではないが、これから子育てという方にはぜひ手にとっていただきたい。おすすめ。
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