顧蓉(著), 葛金芳(著), 尾鷲卓彦(訳), 宦官 中国四千年を操った異形の集団

中国史を語る上で外すことのできない宦官システムの研究書。宦官の発生から衰退までの歴史はもちろんのこと、宦官の性器切除が肉体や精神、そして行動へ与える影響にも紙幅を割き、生き生きとした描写をしているのが特徴的。

そもそもの宦官の発生は、専制君主による多妻制を支えるためであると解く。漢武帝故事によると武帝の後宮には7-8,000人の美女が生活していたとされ、男手なしで維持することは困難であった。そんな環境で私通を回避し、后妃たちが生んだ後継ぎが間違いなく君主の子であることを保証するには、生殖能力喪失者を採用するのが必然であった。こうした事情は他国でも同様で、古代アラブの宦官制度もハーレムと同時期に出現したと指摘されている。

去勢技術の詳細な描写も極めて生々しい。漢代の医書、内経から清代の文献、果ては欧米の文献に記載された生き残り宦官の証言までを辿り、その去勢方法を明らかにした正に労作と言える。その去勢を社会学の見地から考察し、性器切除は宦官の型標識であると看破しているのも興味深い。

こうした宦官がなぜ増殖し続け権力を掌握するに至ったのかは当然の疑問ではあるが、本書はこの疑問にも見事な回答を提示してくれる。歴代の官僚集団は宦官勢力にいくたびか闘争を挑んできたもののその多くが失敗に帰したのは、宦官の背後には常に皇帝権力の支持があったためであった。すなわち、宦官の小さな忠誠心や信義が皇帝の心に入り込み、親近感を覚え、すべてを宦官に任せきりとなる仕組みであり、その点では皇帝自身の責任による部分が大きかった。清朝に入り、皇帝自身による制限措置で宦官の制御に成功したのも、この説を裏付けている。

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