隠岐さや香, 文系と理系はなぜ分かれたのか

文系と理系というよく話題に挙がる割にその正体がよくわからない区分を、科学史の観点から追いかけた良書。

文系と理系という分け方は自明なものではなく、中世に大学が生まれた時点の上級 (専門) 学部は神学、医学、法学のみで、いわゆる理系分野は下級 (学芸) 学部の自由学芸七科に押し込められていた。近代的な自然科学が形成されるのは17世紀以降で、経済学や社会科学の原型が作られるにはさらに時間を要している。文系と理系という分類が欧米諸国に登場するのは、20世紀初頭のリッケルトを待たなければならない。それでもこの二分法は絶対的なものではなく、「人文」「社会」「理工医」といった三分類やそれ以上に分けることも多い。

東アジアの歴史も似たようなもので、数学、医学、農学、戦術・兵法といった「術」はそもそも儒教や道教といった「道」よりも低い扱いを受けていた。「文」と「理」の二分類が定着するのは明治以降の日本で、明確な文書として登場するのは1910年代の第二次高等学校令が最初となる。それ以降、大学入試の準備段階で文系志望・理系志望に二分する方式が定着した。

本書の後半では産業界と文系・理系の関わりやジェンダーと文理選択といった関連テーマも広くカバーされおてり、一冊で文系と理系という分類に関わる諸問題が一通り掴める。

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