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中谷内一也, リスクのモノサシ 安全・安心生活はありうるか

リスクをはかるには、危険か安全かの二分法ではなく、統計に基づくリスク評価が重要というお話。年間死亡率に基づく標準化されたリスク比較セットをモノサシとして使用するべきという考え方は合理的に思える。
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須田慎一郎, 下流喰い 消費者金融の実態

流行のキーワードの入った題名にあざとさを感じながら手に取ったが、これが大当たり。消費者金融の現場の問題点のみならず、消費者と金融庁の確執や銀行をも巻き込んだ業界再編など、高い視点からの解説も豊富。また、90年代以降の消費者金融の急成長から、最近のアイフルの営業停止、そしてグレーゾーン金利まで、最新の状況にも触れられているのもうれしい。この分野の一冊目としてもおすすめできる内容。
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ジェームズ・スロウィッキー, 小高尚子(訳), 「みんなの意見」は案外正しい

集団の中の人々が意見の多様性を持ち、独立に行動し、身近な情報を利用できる状況で、各人の意見を集約するメカニズムを導入してやることで、正しい意志選択が可能になるとのこと。確かにそう指摘されると思い当たるところはいろいろある。自分のまわりだけをみても、オープンソースソフトウェアの成功や、(効率的な) 株式市場などが思い浮かぶ。本書中で数多くの例が紹介されているが、本当に上の様な条件を満たせば正しい選択が可能になるのか、もしくは都合のよい例を集めているだけなのか、という点だけは疑問...
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三戸祐子, 定刻発車 日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?

よく日本の鉄道の正確さは世界一だというようなことを聞く。今までは漠然と日本人の几帳面さが原因くらいに考えていたが、本書はさらに一歩踏み込み、正確さの起源を江戸時代の参勤交代にまで求めている (さすがにちょっと眉唾だと思うところもあるが) 。定刻発車を維持するための工夫の数々は、他のジャンルでの運用、たとえば通信や各種サーバ管理などに携わる方々にも参考になる部分は多くあると思う。いかに並列化を行うか、いかに障害の波及範囲を押さえるか、いかに回復しやすい設計を行うかなど。少々説明...
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鳥飼玖美子, 危うし! 小学校英語

当事者ではない (小学生の子供がいるわけではない) 私のような人間にとって、小学校での英語教育というのはまるで他人事の世界だった。しかしながら本書で解説されている、中央教育審議会を中心とした小学校英語必修化の現状をみると、山積した問題に疑問を覚える。著者が実際の英語教育に携わっている方ということもあり、現場レベルでの懸念がよく伝わってくる。
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速水融, 歴史人口学で見た日本

歴史人口学というのはこの本で初めて知ったのだが、いわゆる歴史学以上に推理の要素を含み、イデオロギーの要素も少なく、私のような人間の興味をそそる。本書は速水先生の自分史のようなところもあり、研究を進める上での苦労がしのばれるのも興味深い。中でも史料データベースの作成に伴う苦労がたびたび述べられているが、このあたりは自分のようなコンピュータ屋やデータベース屋とうまく連携できる仕組みが何かできないものか、と強く思う。
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田端到, ワニとライオンの野球理論

読み物として読み飛ばすにはよいのだが、アラを探せばいくらでも出てくる。特にデータの信頼区間の無視や論理の大きな飛躍が散見されるのは残念。田端氏は統計の専門家ではないと思うので仕方ないとは思うが、データスタジアムがついているのならばもう少し頑張って欲しかった。
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渡辺俊介, アンダースロー論

現役のプロ野球投手が、投球の組立から握り方まで写真入りで赤裸々に語るというのは珍しいと思う。数少ないアンダースロー投手として、そのノウハウを形として残したいという思いが伝わってくる。野球をプレイする人にはぜひ読んでもらいたい一冊。編集協力として小林信也氏の名前がクレジットされているので多少の修正は入っているかもしれないが、渡辺投手の語り口をそのまま感じることができる文体は好印象。中学生時代のアンダースロー転向に始まり、2005年の絶好調、そして2006年の苦しい立ち上がりまで...
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田村秀, データの罠 世論はこうしてつくられる

いわゆるデータリテラシー本。世論調査に始まり、視聴率、都道府県ランキング等、よくみる "危うい" データに触れられている。解説も読みやすく、はじめてのデータリテラシー本としてもお勧めできる。また巻末では、近年の中央省庁の再編によるスリム化の検証を行っているのが、この手の本にしては珍しいところか。
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トム・スタッフォード, Mind Hacks 実験で知る脳と心のシステム

人間が潜在意識下でどのような処理を行っているかを知ることができるのは興味深い。文中でも触れられているように、生存に有利な方向に進化してきたのだろうということが伺える。内容も堅すぎず、豊富な実験を実際に自分で体験しながら読みすすめられるので飽きない。内容には全く不満はないが、webページにあるデモンストレーションを見ながらでないと楽しめない項が多く、電車の中で読むのには難があるのだけが残念。