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マックス・フォン・シュラー, アメリカ人が語るアメリカが隠しておきたい日本の歴史

日韓で活動した経験を持つ元米軍海兵隊による歴史書。おそらく自身による日本語と英語の文章が併記されるスタイル。 日本の自虐史観を否定する以上に、米国 (や西洋) の傲慢さを自ら批判しているのが印象的。
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宮下規久朗, オールカラー版 欲望の美術史

食欲や愛欲といった人間の根源的な欲望に加えて、金銭欲の視点から美術史を眺めているのが興味深い。美術作品も社会に流通する商品であり、むしろ金銭に執着する芸術家の方が才能に恵まれ多産であることがよく分かる。
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松浦健一郎, 司ゆき, ファミコンの驚くべき発想力 限界を突破する技術に学べ

ファミコンの仕様紹介が中心で、後半にはファミコンソフト開発の小ネタが少々。著者の略歴を見る限りファミコンでの開発経験はないようなので、上村雅之の著作やネット上の情報を元に執筆しているように見える。
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阿部珠理, メイキング・オブ・アメリカ 格差社会アメリカの成り立ち

アメリカ先住民の研究者が描く、アメリカの不平等社会の成り立ち。 白人とインディアン、ピューリタンと非ピューリタン、南部貴族と黒人奴隷、ワスプとマイノリティ、資本家と労働者など、アメリカの歴史が格差の歴史そのものであることがよく分かる。それでも救いがあるのが、持たざるものにも社会上昇の機会があること。例えば、新たにやってきた移民労働者は労働者ピラミッドの最下層を形成し、それまでの移民労働者はピラミッドを一段上昇するという社会構造が挙げられる。
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小林昌平, その悩み、哲学者がすでに答えを出しています

現代人の様々な悩みも哲学の歴史から見ればすでに長年議論され尽くしてきたよくある悩みの一つに過ぎない。今現在悩みを抱えている人も、本書からきっとヒントを得ることができるはず。 多数の哲学者をつまみ食いしているため一つ一つは薄めだが、哲学への取り掛かりとしては良い本。
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ダニエル・コーエン(著), 林昌宏(訳), 経済成長という呪い

高々2世紀前に始まった "経済成長" というアイデアが持続可能なものであるのかを問いかける。人類史をなぞってみると、AIを含むデジタル革命が継続的な経済成長をもたらすような簡単な問題ではないことがよく分かる。
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諸富徹, 私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史

税金の成り立ちを追ってみると、租税の仕組みそのものが国家であることがわかる。 著者はまずホッブズとロックの租税論に立ち返る。彼らが租税を国家が市民に提供する便益への対価と定義したことが、国家を形づくったと言える。すなわち、王権神授説から社会契約論にもとづく国家論への転換である。イギリス社会では納税を権利とみなす自発的納税倫理が定着していたのも、この影響が大きい。 一方、無数の領邦国家に分裂していた後進国ドイツでは、イギリスやフランスといった先進国家に対抗して経済的基盤を整えて...
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辻田真佐憲, たのしいプロパガンダ

プロパガンダの中でも、音楽や映画といった娯楽による "たのしいプロパガンダ" を紹介した本。表紙もロトチェンコのパロディ。 大日本帝国、ソ連、ナチ、北朝鮮、韓国、オウム真理教、イスラム国、現代日本と、さまざまな時代と地域の "たのしいプロパガンダ" を取り上げている。所変われどその本質は変わらず、人気芸能人や芸術家までをもフル活用してプロパガンダに励んでいた様子が見て取れる。また、現代の事例も取り上げられており、ロシアやウクライナのSNSを活用したプロパガンダや米国のディーバ...
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パオロ・マッツァリーノ, エラい人にはウソがある 論語好きの孔子知らず

神格化されている孔子の実像に迫ろうという試み。文章はいつもの軽いノリだが、文献調査もしっかりしており内容はマトモ。 そもそも孔子の生涯は謎な部分が多く、有名なエピソードも裏付けがないものが多い。それでも史料を追っていくと、正式に礼法を学んだこともない一介のマナー講師にも関わらず礼法による平和的天下統一を目指した変わり者という実像が見えてくる。 論語を用いた道徳教育へのツッコミも頷けるところが多い。美化されない等身大の孔子の姿と論語の原典をそのまま受け入れることで学べることは多...
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ハリエット・アン ジェイコブズ(著), 堀越ゆき(訳), ある奴隷少女に起こった出来事

アメリカ合衆国ノースカロライナ州の奴隷少女が半生を綴った自伝。本国でも長年フィクションと思われていたが、近年事実に忠実な自伝であることが明らかとなり、ベストセラーとなった。 高々130年前の話とは信じられない内容が続く。祖母の競売、所有者である白人医師からの性的関係の強要、7年間に渡る屋根裏部屋への潜伏、そして北部への逃亡。確かにフィクションと信じないとやるせなくなる内容だ。 訳文の質はもう少し改善の余地があるように思うが、邦訳版を世に送り出してくれた訳者には感謝しかない。