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野球のOR

完全に時期を逸してしまった気もするが、鳩山由紀夫前首相の野球のORを読んでみた。まだセイバーメトリクスもほとんど普及していない1979年の論文でありながら、野球の数理的解析に手を出していたという目の付け所は素晴らしい。政治家としてはともかくとして、研究者としては優秀だったことが良くわかる。論文の柱となっているのは、セ・リーグの現役の全打者の通算成績から出塁率、四死球率、単打率、二塁打率、三塁打率、本塁打率だけを抜き出して、リンゼイ・パルマーモデル相当のものを再構築してしまおう...
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ケン・スティグリッツ(著), 川越敏司+佐々木俊一郎+小川一仁(訳), オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで

オークション理論の主要なところがよくまとまっている。副題には "ネットオークション必勝法" と勇ましく書かれているが、Yahoo! オークションなどで広く行われている2位価格オークションでは自身の評価値そのままを狙い撃ち入札するべきという当たり前と言えば当たり前の結論が導かれている。数学的に興味深いのは、2位価格オークションと1位価格オークションの様に異なる形式のオークションが戦略的同値であり、正しいビッドシェイディングが行われれば売り手の期待収入も買い手の余剰も同一となると...
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V.S.ラマチャンドラン(著), サンドラ・ブレイクスリー(著), 山下篤子(訳), 脳のなかの幽霊

こう言っては少々不謹慎だが、臨床における神経疾病の事例の数々がとにかく面白い。簡単に自分で再現できる実験方法がいくつか示されているのも嬉しいところ。手軽に脳の不思議体験ができる。これを一冊通して読むと、だんだんと自己というものが揺らいでくる感覚がある。著者の言う脳の中の幽霊 (Phantoms in the Brain) が、自分の意識していないところで様々な作業をしている気持ち悪さというものに気付いてしまった。
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アーロン・ブラウン(著), 櫻井祐子(訳), ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学

短期投資はゼロサムゲームであり、その本質はギャンブル (本書ではテキサス・ホールデムを中心に説明しているが、多くのギャンブル・ゲームに当てはまるだろう) であるという身も蓋もない本だが、きちんと本質を捉えている。単純なゲーム理論に傾倒してしまうとつい忘れがちになる、ゲーム理論の限界の先にプレイヤーの心理があるという事実を思い出させてくれる。第9章でエセル・リドルによる1921年の経験的ポーカー研究が紹介されているが、これがズバリと自分のことを言い当てられているようで衝撃を受け...
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Dennis E. Shasha(著), 吉平健治(訳), プログラマのための論理パズル 難題を突破する論理思考トレーニング

問題はオリジナリティの高いものが多く、総じて質は悪くない。ただし、最適値や最小値を求める系列の問題では、本当にそれが最適解であるかの証明が甘い部分が多く、訳者やレビューアにさらに最適な解を指摘されている箇所も目立つのが少し格好悪い。これは、著者がどちらかといえばヒューリスティックな問題や解法を好んでいるせいもある。
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畑村洋太郎, 直観でわかる数学

失敗学で有名な畑村先生の著作。数学を専門としない工学者目線には共感できる部分が多い。ただし、とりあえず書きやすい所から書いているという感があり、系統だった説明ではないのが残念。
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ルイス・アンドレ・バロッソ(著), ウルス・ヘルツル(著), 丸山不二夫(監修), 首藤一幸(監修), 浦本直彦(監修), 高嶋優子(訳), 徳弘太郎 (訳), Googleクラウドの核心 巨大データセンターの変貌と運用の経済学

の訳書。原題通りの内容で、いくら売り上げのためとはいえ、表題に "Google" や "クラウド" といった流行り言葉を無理矢理埋め込むのは感心できない。やや工学系論文のような堅さがあるが、内容はしっかりしている。これからのデータセンター、とくにWSC (Warehouse-Scale Computer) に興味のある人には必読だろう。
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花里孝幸, ネッシーに学ぶ生態系

以前読んだ本が良かったので、他の著書も読んでみた。第1章でタイトルにあるとおり、生態学の専門家から見てネッシーの様な巨大生物がネス湖で長期にわたって生き続けられる可能性はあるのかを大真面目に検討している。このアプローチは既存の写真や目撃証言だけを巡ってああでもないこうでもないと議論しているのと一線を画しており、その手があったかと思わず唸ってしまった。後の章では生態系をテーマにした様々な話題が取り上げられる。全体を通して、(生物学者ではない) 一般の人々が思い込んでいる生態系と...
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高橋久仁子, フードファディズム メディアに惑わされない食生活

フードファディズム批判本。内容は概ね真っ当だが、食料自給率を無批判に取り上げている箇所が見られたり、本論との関係が薄い男女共同参画に丸々一章を割いていたりするのは疑問。
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水島弘史, 今日からおいしくなる洋食のシンプルルール

いわゆる普通の料理本と一線を画しているのは、ただのレシピブックではなく全ての料理の共通する基礎をきっちりと押さえているところ。扱っているのは、火加減、塩加減、切り方の3つの基礎的なルールだけだが、今までその基礎がいかに出来ていなかったかを思い知らされた。自己流でそこそこ料理ができていると思っている人にこそぜひ一度読んで欲しい。