sociology

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川島浩平, 人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか

オリンピックの100m決勝だけを見て黒人の先天的な運動能力の高さを語る向きもあるが、ことはそう単純ではないことが良くわかる。まずは本書の大部を占める環境要因。黒人社会でその種目が選択されるに至る社会的背景が大きな要因となっていることは否定できない。一昔前はボクシングの世界王者を黒人が占めていることが黒人の運動能力の高さを示していると言われていたが、多くの黒人がボクシングの道へ進む動機を失った現在では、黒人の世界王者はむしろ少数派となっているのがその一例。陸上競技の道へ進む黒人...
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キンマサタカ(編集), 本当は怖い昭和30年代 ALWAYS地獄の三丁目

いわゆるコンビニ500円本だが、これがなかなか。増刷もかかっている。三丁目の夕日に代表される昭和懐古ブームに対抗し、昭和30年代の悪いところだけを抜き出したもの。キレイなところだけを抜き出した作品よりもこちらの方が娯楽としてよっぽど面白い。
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ダニエル・ジロディ(著), アンリ・ブイレ(著), 松岡智子(訳), 美術館とは何か ミュージアム&ミュゼオロジー

ミュゼオロジーの入門書であるが、事前知識なしで読める構成なので、素人でも楽しめる。美術館や博物館はただの見世物小屋ではなく、それらを中心とした街作りまで踏み込んで考えるべきものであることを認識させられる。美術館の中の空間作りにも詳しく、どのような意図で展示されているかを考えるための助けになる内容。また、図版の質も高く、眺めているだけでも楽しい一冊。
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池上彰, 知らないと恥をかく世界の大問題

池上彰の著作を読むのは初めて。新書一冊で世界経済から各地の軍事問題、資源争いに年金問題までを扱っているので、当然内容は薄め。2009年の出版ということもあって民主党推しであるが、その点を除けばトンデモ度は低め。
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河合幹雄, 終身刑の死角

死刑について論じる本は多いが、こちらは仮釈放なしの終身刑がテーマ。超党派の議員連盟である "量刑制度を考える超党派の会" が仮釈放なしの終身刑を主張しているが、多分に感情的な主張であり、法学的にも刑務所の実運用的にも多くの難題を抱えていることがわかる。特に、仮釈放なしの終身刑となった受刑者はもはや怖いものがなくなるため刑務所内の統制がとれなくなる危険性は指摘されるまで気づきにくいところ。単に法学的な点から論じるだけでなく、刑務所内での処遇や他の制度との兼ね合い、受刑者の更生、...
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郷田マモラ, モリのアサガオ 新人刑務官と或る死刑囚の物語 (5) (6) (7)

7巻の完結編までまとめ読み。刑務官である主人公の視点で死刑制度の意味を考えるという構成は良いのだが、最後は感情的な結論に至ってしまっていたり、本来は死刑制度とは切り離して考えるべき冤罪問題をないまぜにしてしまったりしているのがやや残念。
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曽野綾子, 貧困の光景

海外邦人宣教者活動援助後援会 (JOMAS) を通じて アフリカへの支援活動を行なっている曽野氏が描くアフリカの貧困の現実。今でこそアフリカの貧困問題は支援の不足と言うよりも政治体制の問題が大きいことが知られるようになってきたが (本書の多くを占めているのも、支援をいかに末端まで届けるかという苦労である) 、現場へ目を向けてみるとその実態はさらに複雑な問題が山積みであることがわかる。日本人とは根本的に異なる考え方をする人々、機能していない社会インフラ、公金の私物化の因習、根強...
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ビョルン・ロンボルグ(編), 小林紀子(訳), 五〇〇億ドルでできること

"環境危機をあおってはいけない" で名を上げたビョルン・ロンボルグが主催したCopenhagen Consensusの結果をまとめたもの。これは、500億ドル (最近の会議では少し増額されている) が与えられた際に社会のどの問題に注ぎ込むのが効果的かを議論する会議。取り上げられる問題は、地球温暖化対策、感染症対策、内戦の抑制、教育投資、政治腐敗の解決、飢餓と栄養不良対策、移住問題対策、水問題対策、補助金問題の解決など、いずれも重要性を否定しにくいものばかりだが、専門家の視点で...
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橘玲, (日本人)

橘玲の新刊。表題ともなっている日本人論を出発点に、話は政治哲学にまで及ぶ。本書の日本人論の柱となっているのはWorld Values Surveyの国民性調査やイングルハートの価値調査による各国の価値観比較。それらを通じて極めて利己的で権威や権力を嫌う日本人像を導き出し、過去の日本人達の行動がすべてその日本人像から導かれることを示す。政治哲学に関する章は氏の過去の著作の集大成といったところだが、グローバリズムや正義といった視点からリバタニアリズム、リベラリズム、コミュタニアリ...
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郷田マモラ, モリのアサガオ 新人刑務官と或る死刑囚の物語 (1) (2) (3) (4)

死刑制度をテーマにした作品。とりあえず4巻まで一気読み。悩める新人刑務官の視点を中心に、加害者の死刑囚、遺族、各種の支援団体、ベテラン刑務官など、さまざまな切り口から死刑制度を考える作品となっている。死刑制度の意義についても、賛成側反対側の双方の考えがきちんと取り込まれており、作者の取材の成果が伺える。絵は少々癖があり好みが分かれそうだが、このテーマは誰もが考えるべきもの。食わず嫌いをせずに読んでほしい。