sociology

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パラサイト 半地下の家族

"パラサイト" と "半地下の家族" の両方の要素が見事に融合した作品。序盤は "パラサイト" として生きる家族がコメディタッチで描かれる。倫理的にはあまり称賛される内容ではないが、たくましく生きる家族の姿には痛快さすら感じる。後半は一転して "半地下の家族" のテーマに切り替わる。この作品では "半地下" や "地下" に様々な意味を含ませており、極めて社会性の強いメッセージが次々と押し寄せてくる。画作りも監督の意図を強く感じる場面が多い。特に "地下" と高所の対比が繰り...
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合田真, 20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る

日本植物燃料株式会社を創設した合田真の自伝。細かいビジネスの話の前に、"新しいお金のものがたり" と称する新たな経済構造の仕組みを提案しているのが興味深い。歴史上散見される金利の禁止が、現代のような資源制約期 (原油生産量がピークを迎えている) では合理的だと論じる。この思想が複利で稼ぐのではない収益分配型モバイルバンクのビジネス立ち上げにつながっている。
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宮口幸治, ケーキの切れない非行少年たち

表題はキャッチーだが、中身はきちんとした発達障害の啓蒙書。現在多くの施設の治療プログラムの根幹となっている認知行動療法に異を唱え、そもそも認知能力に問題がある場合の効果が懐疑的であると説く。著者の児童精神科医としての勤務経験に基づいた理論は実に説得力がある。
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カルロ・ゼン(原作), 石田点(漫画), テロール教授の怪しい授業 (1)

テロリストやカルトをテーマにしたマンガ。特に彼らの標的となりやすい大学を舞台に、その実態や見分け方を学べる。
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橘玲, 女と男 なぜわかりあえないのか

今回のテーマは男女差。著者お得意の進化論で読み解く。読み物としては面白いが、専門の研究者ではないので科学的な裏付けは弱い。具体的には以下の点に注意が必要。エビデンスとして掲げている論文にメタアナリシスはほとんどなく、強いバイアスの疑われる研究が多いあくまで進化論で説明できるというだけで、進化論の結果としてそうなっている証拠はない。逆のエビデンスが得られていたと仮定した場合に進化論で説明できるかを考えてみると良いだろう
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ピザ!

インド映画 "ピザ!" をAmazon Prime Videoで鑑賞。歌も踊りもないタイプだが、代わりに現代インドの格差やスラムの様子を丁寧に描いている。貧乏でもたくましく誇り高く (ときにずる賢く) 生きる兄弟、度重なる苦労に疲れ果てている母、孫には甘い祖母 (ピザが食べたいとせがむ孫に見様見真似でピザ風ドーサを作ってくれる) といった要素が重なり合った脚本は見事。
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塚原洋一(漫画), 片岡健(原作), マンガ「獄中面会物語」

殺人犯の実像を描くことを目的に、彼らとの面会を綴ったをマンガ化したもの。どこかで見たことがある絵柄だと思ったら、の人だった。殺人犯と一口に言ってもその実態は様々だ。幼少期の愛犬の仇討ちのために綿密な計画を完遂した男、「意思の疎通が取れない障害者は安楽死させるべき」が正義と信じる男、軽度の知的障害が疑われる男。いずれも加害者側の取材のみに偏っており、また被害者を想うと簡単に肯定できるものではないが、マスコミ報道のイメージとはまた違った死刑囚の姿を見ることができる。
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小島拓(著), 弁護士法人畑中鐵丸法律事務所(法律監修), 融資地獄 「かぼちゃの馬車事件」に学ぶ不動産投資ローンの罠と救済策

かぼちゃの馬車事件を題材として、サラリーマン大家の実態や融資地獄に陥った場合の対処法などを解説している。根底にあるのは、本来は先祖代々の地主や資産家が行ってきた不動産投資に、知識も資産も銀行との取引実績もないサラリーマンが参入するという歪み。これには、日本銀行の方針による金融緩和を受けて生まれたサラリーマン大家向けの融資が大きく関係している。こうして、多くのサラリーマン大家が採算の取れない物件を掴まされ、融資地獄に陥っている。後半の融資地獄に陥った場合の対処法も良い。「借りた...
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三井誠, ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から

創造論を信奉するキリスト教根本主義や温暖化をでっちあげと批判する大統領など、米国を覆う科学不信に迫ったドキュメンタリー。これらの科学不信の原因は知識の有無ではないかと思いがちだが、問題はそう単純ではない。そもそも人が知識に基づいて理性的に行動する存在というのが思い込みで、何かを決めるときに理性に頼る啓蒙主義も18世紀から広がった最近の流行に過ぎない。学校の先生から教えられた直感と反する進化論よりも、最も身近で信頼できる親から教えられ直感にも合う創造論を信じてしまう子供がいるの...
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ポール・クルーグマン(著), ジョージ・パパンドレウ(著), ニュート・ギングリッチ(著), アーサー・ラッファー(著), 町田敦夫(訳), 金持ちは税率70%でもいいvsみんな10%課税がいい 1時間でわかる格差社会の増税論

カナダのテレビ局BNNの公開討論番組を書籍化したもの。増税の賛否双方とも豪華なディベータで、双方の問題意識がどこにあるかを明確にしてくれる。単に感情的な意見や道徳的な視点にとどまらず、実現可能性についてもきちんと議論されているのが良い。