sociology

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パオロ・マッツァリーノ, エラい人にはウソがある 論語好きの孔子知らず

神格化されている孔子の実像に迫ろうという試み。文章はいつもの軽いノリだが、文献調査もしっかりしており内容はマトモ。 そもそも孔子の生涯は謎な部分が多く、有名なエピソードも裏付けがないものが多い。それでも史料を追っていくと、正式に礼法を学んだこともない一介のマナー講師にも関わらず礼法による平和的天下統一を目指した変わり者という実像が見えてくる。 論語を用いた道徳教育へのツッコミも頷けるところが多い。美化されない等身大の孔子の姿と論語の原典をそのまま受け入れることで学べることは多...
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荻原博子, 隠れ貧困 中流以上でも破綻する危ない家計

タイトルにもなっている「隠れ貧困」の定義がはっきりしない。本文から推定するに、収入が人並み以上にもあるにもかかわらず貯蓄ができていない人々を指すようだが、閾値が不明。定義できていない以上、当然データを用いた議論はなく、実在が不明な「隠れ貧困」の事例やQ&Aだけが続く。
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橘玲, もっと言ってはいけない

言ってはいけないの続編。 取り上げている話題には曲がりなりにもエビデンスが用意されているが、やや理論が飛躍していたり、アクア説などまだ異論も多い学説に入れ込んでいたりと、首をかしげるところも多い。それでも読み物としては申し分なし。
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佐藤優, いま生きる「資本論」

読む順序が逆になってしまったが、いま生きる階級論の前著。 1930年代の日本資本主義論争まで遡った資本論の読み方を説く。天皇制の打破による日本の資本主義社会化の後に社会主義革命を目指す講座派と、すでに権力の実態を持っている財閥を即座に打破する社会主義革命を志向する労農派。それらの対立が資本論の読み方に強い影響を与えている。 人生を楽にするために資本論を読もうという提案も興味深い。資本主義のからくりを知ることは、資本主義社会の中で自分の置かれた状況を客観視することにつながる。資...
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森博嗣, 「やりがいのある仕事」という幻想

森博嗣らしい醒めた仕事論。仕事はあくまでも働いて金を儲ける行為であり、それ以上の意味付けを否定する。好き嫌いがはっきり分かれそうではあるが、著者本人がその思想に基づいて幸福度の高い生活を送っていることは注目に値する。
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川端裕人, PTA再活用論 悩ましき現実を超えて

PTA本では珍しいポジティブなPTA参加録。 PTAの「強制加入問題」に疑問を持つ身でありながらPTAを高く評価していることは特筆に値する。ヒエラルキーのない横並びの組織、ボトムアップ型の構造など、実態はさておき理念としては賛同するのは理解できる。また、社会的な立場を超えて成立する共同体が貴重な機会だというのもよく分かる。それでも、 現状のPTAの 義務・強制・負担の原因となっている「強制加入問題」を解決し自由な入退会を実現した上でPTA上手く活用していこうという論はやはり楽...
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大石浩二, トマトイプーのリコピン (1) (2) (3)

磯部磯兵衛物語の後釜として週刊少年ジャンプの巻末ギャグ枠に入ったが、諸事情により少年ジャンプ+へ移籍。単行本は続いて欲しい (週刊少年ジャンプで一旦完結させた版が単行本未収録だが)。 グッズ化できそうなかわいいキャラクターと時事風刺ネタとのギャップがすばらしい。
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廣末登, ヤクザになる理由

犯罪社会学者による、元暴力団組員たちへのインタビュー。 機能不全家庭や交友関係が暴力団加入につながっているという仮説ありきでインタビューを行っているように見える点や環境とその他の要因 (遺伝等) が切り分けられていない点は気になるが、インタビューの内容自体は迫力がある。
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おおたとしまさ, 受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実

受験をテーマにしているが、小手先の受験テクニックではなく、もう少し広い視点で現代の教育や学力を扱っている。最難関校以外も含めて、進学の選択肢が一望できるのも良い。 思考コードなどの新しい学力の評価軸や、それを踏まえた大学入試改革が掴めるのもポイント。
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スコット・A・シェーン(著), 谷口功一(訳), 中野剛志(訳), 柴山桂太(訳), 〈起業〉という幻想 アメリカン・ドリームの現実

華やかに見える米国のスタートアップも、その実態は大きく異ることをデータで示している。 米国はそもそも起業が盛んなわけではなく、その起業もハイテク産業ではなく建設業や小売業などの枯れた業種が中心。起業の動機も、世界を変えるという華々しいものは少数派で、他人の下で働きたくないという理由が多い。起業した結果、雇われていたときよりも長時間労働かつ低収入に陥っていることも多い。 それでも、起業自体が幸福度を挙げることにつながっているのは救い。他人のために働くよりも自分のために働いたほう...