fiction

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麻耶雄嵩, 痾

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) の実質的な続編。といいつつも、繋がりはやや大人しめ。相変わらず後味が悪い作品。麻耶雄嵩らしい豪快な仕掛けから来るカタルシスはあるものの、やはり腑に落ちない部分が多い。文章としては前作よりやや読みやすくなっているように感じる。
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麻耶雄嵩, 神様ゲーム

児童向けレーベルのミステリーランドにも関わらず麻耶雄嵩全開なところが素晴らしい。内容は子供向けではなく、オチも子供に理解できるものとは思えない。麻耶雄嵩ファンの大人向けとしては佳作。
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麻耶雄嵩, 夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)

700ページあまりの分厚い文庫だが一気に読んでしまった。ミステリ作品 (本格ミステリの人からは認められないかもしれないが) なのでネタバレは書かないが、何とも後味の悪い話。衝撃的な結末はあるものの、残された謎も多いあたりは麻耶雄嵩らしい。
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秋口ぎぐる, ひと夏の経験値

TRPGをテーマに据えたボーイ・ミーツ・ガール小説。TRPGから派生した作品は数あれど、TRPGのプレイヤーを扱った作品は珍しい。主なターゲットは現在30代中盤から40代中盤の男性で、1990年台前半頃の日本のTRPG全盛期に青春時代を過ごした層。登場するゲーム名など、懐かしさがこみ上げてくるものが多い。当時の草食系TRPGプレイヤーの心理をこれでもかと突いてくる描写は見事。人によっては痛いところを突かれて立ち直れないかもしれない。私は立ち直れなかった。タナケンのエピソードな...
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岩貞るみこ, 青い鳥文庫ができるまで

児童書の編集部をテーマにした小説。小説とはいえ非常に生々しい内容で、出版編集の実態を知りたい向きにもお勧めできる。出版業をテーマにした作品は他にもあるが、児童書ならではの心遣いを随所に織り込んでいるのが嬉しい。子どもたちの懐事情を気にかけたり、子どもたちの読むものに誤りは許されないと校正に力を注いだりといった姿は素直に共感できる。(判型は大きく異なるものの) 青い鳥文庫の装丁を真似ているあたりも心憎い。
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星新一, つぎはぎプラネット

没後16年目の新刊。過去の単行本未収録作品をまとめたもの。出典は児童誌や企業のPR誌など様々で、比較的初期の作品が多い。テーマも品質も大きくバラつきがある。星新一の作品とも思えないようなものも混ざっているので、あまり期待し過ぎると裏切られるかもしれない。コレクターズアイテムとしては重要な一冊。
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アガサ・クリスティー, パトリシア・ハイスミス, モーリス・ルヴェル, ジョー・R・ランズデール, シャーリイ・ジャクスン, ウラジーミル・ソローキン, フランツ・カフカ, リチャード・クリスチャン・マシスン, ローレンス・ブロック, フラナリー・オコナー, フレドリック・ブラウン, 厭な物語

後味の悪さをテーマに編まれたアンソロジー。何よりも企画の勝利。シャーリイ・ジャクスンの "くじ" などの古典的名作から聞いたこともないような作品まで幅広い収録。肝心の "厭さ" も "ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ" の様な暴力的な厭さから "フェリシテ" の様な精神的な厭さまで選り取り見取り。編集も見事で、末尾にフレドリック・ブラウンの "うしろをみるな" を持ってくるところなど芸が細かい。
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ジョージ・ソーンダーズ(著), 岸本佐知子(訳), 短くて恐ろしいフィルの時代

奇妙な童話風の物語として始まるが、その裏はどろどろしたものが詰まっている。普通の人間がちょっとしたきっかけで簡単に独裁者となってしまう様子が見事に描かれている。内容も良いが、翻訳も装丁も水準以上。
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伊藤計劃, 虐殺器官

伊藤計劃の処女作。やや内向的で繊細な主人公による一人称視点や世界観など、どことなくSFというよりもゲームっぽさを感じさせる。本格ハードSFを期待していると裏切られるかもしれないが、エンターテイメントとしては一級品。翻訳調の文体も好み。
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山本弘, アリスへの決別

各所で発表した作品をまとめた中短編集。山本弘の趣味丸出しの作品が多いので、ハードSFを期待していると裏切られるかもしれない。そんな中、少し毛色の違うホラー作品の "地獄はここに" はなかなか。