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諸富徹, 私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史

税金の成り立ちを追ってみると、租税の仕組みそのものが国家であることがわかる。 著者はまずホッブズとロックの租税論に立ち返る。彼らが租税を国家が市民に提供する便益への対価と定義したことが、国家を形づくったと言える。すなわち、王権神授説から社会契約論にもとづく国家論への転換である。イギリス社会では納税を権利とみなす自発的納税倫理が定着していたのも、この影響が大きい。 一方、無数の領邦国家に分裂していた後進国ドイツでは、イギリスやフランスといった先進国家に対抗して経済的基盤を整えて...
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マイケル・ルイス(著), 渡会圭子(訳), 東江一紀(訳), 阿部重夫(解説), フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

しばらく野球に浮気していたマイケル・ルイスが金融に戻ってきた。今度のテーマはナノ秒の世界で先回りして注文をかすめ取る超高速取引。 忽然と消えてしまう注文の謎を追うブラッド・カツヤマや関連する技術者の視点からのストーリーは良質のミステリのよう。理解には欠かせないダークプールの仕組みの解説もしっかりしており、この分野の入門書としてもおすすめできる。
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橘玲, 上級国民/下級国民

先進国で進んでいる上級国民/下級国民への階層分断についての考察。 前半は主に日本社会で下級国民が生み出された背景を探り、仕事が嫌いで会社を憎みながら長時間労働をしそれでも生産性が低い日本のサラリーマンにその原因を求める。この理由を更に追い求めると、団塊の世代の雇用を守り続けたことに行き着く。その影で割りを食ったのは若い男性だ。そして令和は団塊の世代の年金を守り続ける時代になると予想する。 後半では世界レベルでの上級国民/下級国民への階層分断がなぜ起こっているかにも触れ、個人の...
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辻田真佐憲, たのしいプロパガンダ

プロパガンダの中でも、音楽や映画といった娯楽による "たのしいプロパガンダ" を紹介した本。表紙もロトチェンコのパロディ。 大日本帝国、ソ連、ナチ、北朝鮮、韓国、オウム真理教、イスラム国、現代日本と、さまざまな時代と地域の "たのしいプロパガンダ" を取り上げている。所変われどその本質は変わらず、人気芸能人や芸術家までをもフル活用してプロパガンダに励んでいた様子が見て取れる。また、現代の事例も取り上げられており、ロシアやウクライナのSNSを活用したプロパガンダや米国のディーバ...
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先崎学, うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間

著名人がここまで赤裸々に語った闘病記は貴重。うつ病患者にとって何が嬉しかったかという記録は、同様の患者に接する際にも大いに参考になる。みんな待ってますという一言のように、存在価値を確認できるような言葉が大事なのだと思う。逆に、暗い人間を元気づけようと明るいことをはなすのは避けなければいけない。 幸いにして著者は1年程度で復帰しているが、これには精神科医である実兄のおかげによる最高に近い治療環境があったことは留意するべき。
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とりのささみ。, テイコウペンギン

可愛い絵柄と皮肉の効いたパンチラインのアンバランスが素晴らしい一コマ漫画。さり気なく鉄道定期券のイメージキャラにケンカを売っているのも良い。
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永井孝尚, なんで、その価格で売れちゃうの? 行動経済学でわかる「値づけの科学」

流行りの行動経済学で値付けを読み解こうという本。 紹介されている値付けの技術は、行動経済学を持ち出すまでもない古典的なものも多い。それでもPSM分析などの値付けのための基本的なツールは一通り押さえられており、入門書としては良い出来。
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コンビニ加盟店ユニオン, 北健一, コンビニオーナーになってはいけない 便利さの裏側に隠された不都合な真実

コンビニの告発本。コンビニ全般ではなくセブン‐イレブンに偏っており、ファミリーマートの事例が少々ある程度。また、加盟店オーナー側の主張がほとんどで、フランチャイズ側の言い分はほぼなし。 それでも、具体的な事例が多数掲載されており、告発本としての意義は果たしている。いわゆるコンビ会計などのよく知られた問題に加え、加盟店の財務諸表で本来買掛になるべき部分を与信として金利を発生させているという問題に踏み込んでいるのは興味深い。
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高橋名人, 公式16連射ブック 高橋名人のゲームは1日1時間

高橋名人の自伝。 名人がハドソンに入社してからスター街道を駆け上がるまでが本人の手で綴られる。どれも誠実な語り口で、名人の人柄が伺える。シュウォッチ、キャラバン、Bugってハニーといった、名人の深く関わった流行の裏話も盛りだくさんで、当時を知る年代にはただただ懐かしい。カラーページには名人の思い出の品も多数収録されており、完全保存版と言える内容。
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堤未果, (株)貧困大国アメリカ

ルポ 貧困大国アメリカ IIに続いてもう一冊。 シリーズ完結編で、貧困を生み出す巨大企業と政府の癒着を見事に描ききっている。大企業に絡め取られる農場経営、GM種子による食の支配、切り売りされる公共サービス。どれも現在のアメリカを理解する上で欠かせないものばかり。特に公共サービスの崩壊については、民間企業が運営する自治体Public Private Partner (PPP) の動向も取り上げられており興味深い。