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毛利衛, 日本人のための科学論

現在は日本科学未来館館長を務める毛利衛による科学論。なぜ日本で科学技術が発展したのかにはじまり、科学者がどうあるべきかまで、宇宙飛行士と言うよりも科学者としての熱い思いを感じる事ができる。ポジショントーク的な部分もあるがご愛嬌の範囲。
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ゲアリー・マーカス(著), 鍛原多惠子(訳), 脳はあり合わせの材料から生まれた それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ

進化論では生物の進化は漸進的なものであり、手元の材料にその場凌ぎで新たな機能を継ぎ足し続けた (いわゆるKludge) 結果が現在の姿であるとされる。もちろん、人間の脳も例外ではなく、最初から完成形を想定して設計されていたのならばあり得ないような構造が多数見られる。本書は、その様な非合理な脳の設計を進化心理学の立場から解き明かしたもの。人間の記憶、選択、言語、快楽など、ありとあらゆる機能が、進化の歴史的経緯によって大きく歪められていることがよく分かる。また、巻末にはその脳とい...
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ビートたけし, たけしの最新科学教室

ビートたけしによる科学者10人へのインタビューをまとめたもの。いわゆるタレント教授などではなく本物の先端を行く学者なので、一つ一つの話から熱意が感じられ、読む方もつい熱が入ってしまう。また、聞き手のビートたけしがインタビュー前に相当の予習をしているのが感じられるのも好印象。
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ビョルン・ロンボルグ(編), 小林紀子(訳), 五〇〇億ドルでできること

"環境危機をあおってはいけない" で名を上げたビョルン・ロンボルグが主催したCopenhagen Consensusの結果をまとめたもの。これは、500億ドル (最近の会議では少し増額されている) が与えられた際に社会のどの問題に注ぎ込むのが効果的かを議論する会議。取り上げられる問題は、地球温暖化対策、感染症対策、内戦の抑制、教育投資、政治腐敗の解決、飢餓と栄養不良対策、移住問題対策、水問題対策、補助金問題の解決など、いずれも重要性を否定しにくいものばかりだが、専門家の視点で...
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ジョン・ブレンカス(著), 矢羽野薫(訳), 世界記録はどこまで伸びるのか

スポーツファンならば誰でも気になる世界記録の上限 (perfection point) を探る試み。対象となる種目は、帯にもなっている100メートル競走やマラソンから水泳、空中静止時間、ホームランの最長飛距離まで多岐にわたる。この視野の広さは、著者のESPNのエグゼクティブプロデューサーとしての経験からか。予測方法は種目ごとに様々だが、世界記録の変遷に外挿して漸近線を求めるようなよくあるアプローチではなく、ボトムアップで積み上げていく思考が中心。例えば100メートル競走を例に...
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死に至る薬と毒の怖さを考える会, 図解中毒マニュアル 麻薬からサリン、ニコチンまで

いわゆる麻薬類から毒物までの解説書。もちろん本格的な専門書などではなくアングラ風味。実際には解説部はわずかで、残りは麻薬利用経験者の事例や歴史上の毒殺例などで水増しされている。あくまで読み物。
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花里孝幸, ミジンコはすごい!

陸水生態学の専門家によるミジンコの本。ミジンコがいかにして環境に適応していくかの実例を通じて、湖の生態学をも学べる仕組みになっている。岩波ジュニア新書から刊行されているが、大人の読書に充分耐える内容。
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桑嶋健一, 不確実性のマネジメント 新薬創出のR&Dの「解」

門外漢の自分は、医薬品産業の研究開発は一攫千金の宝探しの感覚で捉えていた。しかしながら、その研究開発の詳細をつぶさに見ていくと、そういった宝探し的な部分は研究開発初期の探索段階に限ったものであり、その後の開発段階ではマネジメントが非常に大きな要素を占めていることがわかる。副題にもある通り医薬品産業を主に扱った本であり、事例も高脂血症治療薬「メバロチン」や痴呆治療薬「アリセプト」といった医薬品中心だが、後半ではより高い視点にたった産業間比較も行われており他業界の研究開発にも参考...
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太田光, 田中裕二, 遠藤秀紀, 爆笑問題のニッポンの教養 人間は失敗作である 比較解剖学

遺体科学の第一人者として有名な遠藤秀紀の研究室を爆笑問題の2人が訪問するスタイル。元はテレビ番組らしいが観ていない。動物の遺体解剖の話はいくら読んでも飽きることがなく、知的好奇心を刺激し続けてくれる。後半には行政改革に対する怒りも。博物館や動物園が本業の研究や教育の土台作りに注力できず、手早く収入を得るために遊園地化せざるを得ない状況に対する危機感が伝わってくる。
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長谷川英祐, 働かないアリに意義がある

アリやハチのコロニーに働かない個体がいる理由や働かない個体を決める仕組を、反応閾値モデルに沿って解説。後半には、利他行動をとる理由を説明する血縁選択説や群選択説、社会寄生が行われている事例の紹介なども。一般読者向けの啓蒙書の体裁ではあるが、専門家の間でも議論が割れている事柄やよくわからない分野を煙に巻くことなく、科学者としての真摯な姿勢で事実をきちんと説明しているのが素晴らしい。