R.M.W.ディクソン, 言語の興亡

言語がどの様に生まれ、分岐し、滅亡していくのかを俯瞰的に捉えている。ただし、作者の持論である断続平衡説など、まだ仮説レベルの話も多く含まれているため、その点は注意する必要がある。

言語が失われるプロセスに関するくだりが興味深い。通常、社会的立場の弱い非優勢言語の話者が第二言語として社会的に優位な優勢言語を覚える場合が多く、逆は少ない。これは、英語を話す日本人の割合と、日本語を話す英・米国人の割合を考えれば理解できる。言語が消滅する典型的なケースの一つとして、劣性言語と優勢言語の双方を話す親が、子供に優勢言語だけを教えるという過程が挙げられている。その方が、社会的にも経済的にも有利である場合が多いからだ。

実は私もこの経験をしている。私の父は鹿児島弁 (と書くと日本語の方言のようだが、実際には別の言語といえるほどかけはなれている) のネイティブ・スピーカーであったが、私に話すときはほとんど標準語であった。父が上京してきた関東には鹿児島弁の話者は少なく、母も鹿児島弁をほとんど理解しなかったためだろう。その結果として、私は鹿児島弁が話せない。親戚などはこちらが鹿児島弁を理解できないとみると標準語で話してくれるので問題ないが、ネイティブ同士の会話を横からきいていると全く理解不能である。こうして、父の代で鹿児島弁の話者は途絶えることとなった。鹿児島で育ちで鹿児島弁と標準語のバイリンガルである従兄弟の一人が今年結婚して大阪に移り住むことになったが、彼は子供ができたときに鹿児島弁を教えるのだろうか。

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