sociology

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三戸祐子, 定刻発車 日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?

よく日本の鉄道の正確さは世界一だというようなことを聞く。今までは漠然と日本人の几帳面さが原因くらいに考えていたが、本書はさらに一歩踏み込み、正確さの起源を江戸時代の参勤交代にまで求めている (さすがにちょっと眉唾だと思うところもあるが) 。 定刻発車を維持するための工夫の数々は、他のジャンルでの運用、たとえば通信や各種サーバ管理などに携わる方々にも参考になる部分は多くあると思う。いかに並列化を行うか、いかに障害の波及範囲を押さえるか、いかに回復しやすい設計を行うかなど。 少々...
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鳥飼玖美子, 危うし! 小学校英語

当事者ではない (小学生の子供がいるわけではない) 私のような人間にとって、小学校での英語教育というのはまるで他人事の世界だった。しかしながら本書で解説されている、中央教育審議会を中心とした小学校英語必修化の現状をみると、山積した問題に疑問を覚える。著者が実際の英語教育に携わっている方ということもあり、現場レベルでの懸念がよく伝わってくる。
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速水融, 歴史人口学で見た日本

歴史人口学というのはこの本で初めて知ったのだが、いわゆる歴史学以上に推理の要素を含み、イデオロギーの要素も少なく、私のような人間の興味をそそる。 本書は速水先生の自分史のようなところもあり、研究を進める上での苦労がしのばれるのも興味深い。中でも史料データベースの作成に伴う苦労がたびたび述べられているが、このあたりは自分のようなコンピュータ屋やデータベース屋とうまく連携できる仕組みが何かできないものか、と強く思う。
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田村秀, データの罠 世論はこうしてつくられる

いわゆるデータリテラシー本。世論調査に始まり、視聴率、都道府県ランキング等、よくみる "危うい" データに触れられている。解説も読みやすく、はじめてのデータリテラシー本としてもお勧めできる。 また巻末では、近年の中央省庁の再編によるスリム化の検証を行っているのが、この手の本にしては珍しいところか。
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牧野和夫, 2ちゃんねるで学ぶ著作権

2chの冠がついているものの、中身はまともな一冊。2ch発のAAやキャラクターを例題とした解説が実に分かりやすく、ネット上でよくある事例にも則しているように思える。 元アップルコンピュータ法務部長の牧野弁護士とひろゆき氏のかけあいも楽しい。ひろゆき氏はなんだかんだ言って頭のいい人だな、と思う。
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大竹文雄, 経済学的思考のセンス お金がない人を助けるには

経済学を身近なミクロの見地から眺めるので非常に読みやすい。各種のインセンティブが、人間の行動にどう作用するかに力点を置いている。 いくつかプロ野球を扱った話があるが、読み物としては面白いものの納得しかねる部分がある。"プロ野球における戦力均衡" は数値的な裏付けなしに理屈をこね回しているように見えてしまう。また、"プロ野球監督の能力" はチーム戦力の評価に下式を使用しているが、さすがにセイバーメトリクス全盛の現在に平均打率はないだろうと思う。元論文が1994年のものの様なので...
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ジェシカ・ウィリアムズ, 世界を見る目が変わる50の事実

途上国と先進国の格差を扱ったテーマが多い。「地雷によって毎時間一人は負傷している」、「拷問は一五〇カ国以上で行われている」、「世界では七人に一人が日々飢えている」など、ショッキングな数字が並ぶ。 読み物としては非常に興味深いが、100人の村 (の第二部) の様な政治色を少し感じる。この内容ならばやや左寄りになってしまうのは仕方がないのだろう。
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スティーヴン・レヴィット, ヤバい経済学 悪ガキ教授が世の裏側を探検する

ヤバい経済学 (Freakonomics) と名乗っているが、経済学というよりは社会学の領域のものが多いと思う。 日本人としては、やはり大相撲の八百長の話題が興味深い。千秋楽で7勝7敗の力士が妙に強いのは日本人なら誰でも知っていることだが、それを数値で示し、さらに星の貸し借りが次の対戦で調整されている事実までを暴く。まあ、半分神事としての性質を残す相撲に対して大真面目に八百長を指摘するというのも野暮だとは思うけれど。 その他、一部アメリカ依存でいまひとつピンとこないもの (ク...
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ASH(ACTION ON SMOKE AND HEALTH), 悪魔のマーケティング タバコ産業が語った真実

タバコ産業が、タバコの害を知りながらそれを隠し、いかに巧妙なマーケティングを行ってきたかを、豊富な資料で語る。タバコの害については既にいろいろなところで喧伝されているので、いまさらとりたてて言うことはないが、それを隠しながら拡販を続けるタバコ産業の商売のやり方を暴いた功績は大きい。 淡々と資料の抜き書きとそれに対するコメントが並べられているだけで特に読みやすくする工夫がされているわけでもないし、翻訳も今ひとつだが、内容の充実ぶりは保証できる。
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鯖田豊之, 日本人の戦争観はなぜ「特異」なのか 日本と欧米の比較にみる戦争と人間の風土

肉食の思想と同じく40年前の本の復刊だが、これも全く古さを感じない。 鯖田先生の専門である西洋中世史の知識に基づき、欧米の戦争史を眺めることで、日本と欧米の戦争観の違いを探る。そもそもの近代国家の成立までの道のりが全く異なる以上、戦争観が食い違うのも当然のことのように思える。 また、後半は「死」の概念について、日本と欧米の違いを探っているがこれも興味深い。改めて、自分の死生観が日本人のものであることを認識する。