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河合幹雄, 終身刑の死角

死刑について論じる本は多いが、こちらは仮釈放なしの終身刑がテーマ。 超党派の議員連盟である "量刑制度を考える超党派の会" が仮釈放なしの終身刑を主張しているが、多分に感情的な主張であり、法学的にも刑務所の実運用的にも多くの難題を抱えていることがわかる。特に、仮釈放なしの終身刑となった受刑者はもはや怖いものがなくなるため刑務所内の統制がとれなくなる危険性は指摘されるまで気づきにくいところ。 単に法学的な点から論じるだけでなく、刑務所内での処遇や他の制度との兼ね合い、受刑者の更...
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宮崎市定, 科挙 中国の試験地獄

様々な伝説がひとり歩きしている感のある科挙試験の実態を詳細に解説したもの。 特に末期の清朝の制度を中心に解説しているせいもあるが、科挙が恐ろしく複雑な制度であることがよくわかる。中でも特色的なのは、人間を信用しないがために生まれた不正防止の方法の数々。何重にも重ねられたチェック体制がいたずらに試験を肥大化させている原因の一つである。 また、科挙にまつわる道教思想に基づいたエピソードの数々も現代とはかけ離れた感覚があり面白い。 著者独自の考察としては、国家として教育に投資せず民...
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曽野綾子, 貧困の光景

海外邦人宣教者活動援助後援会 (JOMAS) を通じて アフリカへの支援活動を行なっている曽野氏が描くアフリカの貧困の現実。 今でこそアフリカの貧困問題は支援の不足と言うよりも政治体制の問題が大きいことが知られるようになってきたが (本書の多くを占めているのも、支援をいかに末端まで届けるかという苦労である) 、現場へ目を向けてみるとその実態はさらに複雑な問題が山積みであることがわかる。日本人とは根本的に異なる考え方をする人々、機能していない社会インフラ、公金の私物化の因習、根...
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ビョルン・ロンボルグ(編), 小林紀子(訳), 五〇〇億ドルでできること

"環境危機をあおってはいけない" で名を上げたビョルン・ロンボルグが主催したCopenhagen Consensusの結果をまとめたもの。これは、500億ドル (最近の会議では少し増額されている) が与えられた際に社会のどの問題に注ぎ込むのが効果的かを議論する会議。 取り上げられる問題は、地球温暖化対策、感染症対策、内戦の抑制、教育投資、政治腐敗の解決、飢餓と栄養不良対策、移住問題対策、水問題対策、補助金問題の解決など、いずれも重要性を否定しにくいものばかりだが、専門家の視点...
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橘玲, (日本人)

橘玲の新刊。表題ともなっている日本人論を出発点に、話は政治哲学にまで及ぶ。 本書の日本人論の柱となっているのはWorld Values Surveyの国民性調査やイングルハートの価値調査による各国の価値観比較。それらを通じて極めて利己的で権威や権力を嫌う日本人像を導き出し、過去の日本人達の行動がすべてその日本人像から導かれることを示す。 政治哲学に関する章は氏の過去の著作の集大成といったところだが、グローバリズムや正義といった視点からリバタニアリズム、リベラリズム、コミュタニ...
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マイケル・サンデル(著), 鬼澤忍(訳), それをお金で買いますか 市場主義の限界

最近日本で売れているサンデル教授による市場主義の批判本。市場主義がなじまない事例や、市場主義により引き起こされた問題点のカタログ的な構成。 市場主義の問題点として、単純な好き嫌いの道徳面だけではなく、不平等や社会規範の破壊といった視点で捉えているのが興味深い。前者は、ここ数十年の貧困家庭や中流家庭の生活が悪化している原因を、富の配分だけではなくあらゆるものが商品となってしまったがためにお金の重要性が増したことにあると説く。後者は、市民の公共心の問題を金銭の問題に変質させてしま...
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飯田泰之, 雨宮処凛, 脱貧困の経済学 日本はまだ変えられる

経済学という表題がついているが、実際は経済談義とでも言うべき対談本。 対談本という形式の限界もあるのだろうが、テーマに掲げている貧困の定義自体がやや揺らいでいる。あるときは低所得の人々全般を指しているかの様でもあり、またあるときは労働者の中では少数派の非正規雇用労働者だけを対象としているようにも読める。また、因果関係も不明な箇所が多い。例えば、貧困の原因が小泉政権による構造改革であることが当然の様な口調だが、構造改革はるか前の1980年代から非正規雇用者比率やジニ係数が増加し...
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永野学, 図解 いちばん面白い日本国債入門

日本国債の本当の基礎の部分から、発行母体である日本国の懐事情まで。 原理原則の話が多く投資にそのまま活用できる情報は少ないが、読みやすく真っ当な内容なので基礎固めにはお勧めできる。
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小松正之, これから食えなくなる魚

元水産庁官僚による水産資源の本。少々煽ったような表題だが、内容は意外と固めで、データの裏付けもしっかりしている。日本の漁業の実態を良く知っている著者だけに端々に厳しい指摘が見られるが、頷けるものが多い。
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谷口正次, メタル・ウォーズ 中国が世界の鉱物資源を支配する

ベースメタル、レアメタル、レアアースといった鉱物資源の世界規模での奪い合いを描いた作品。著者は小野田セメント出身で世界各地での鉱山開発の経験を通じて資源戦争 (メタル・ウォーズ) の現状を熟知しているため、日本の資源戦略のお粗末さに対する怒りが強く感じられる。 マクロで見た統計的な情報と、自身の経験や現地取材によるミクロな情報の両方がきちんと押さえられており、資源戦争の現状を把握するには最良の一冊。 反面、読み物として見ると少々厳しい。前半半分程度を中国の資源囲い込みの実例が...